この家どうなるの?(22)ウソも方言
家業は金属加工業。貧乏な労働者階級。町工場の多い下町で。
父は、平成のはじめに廃業を決めました。
この町は、令和のいまでも鉄工所のにおいがします。
今回は、ちょっとびっくりした、おはなし。
プラッチック
プラッチックとは、プラスチックのことです。大阪の職人さんは、なぜか「プラッチック」と発音していました。
言いやすかったのでしょうね。
「アルミの時代も終わりや。これからはプラッチックの時代や」
わたしが子どもの頃、生活雑貨はアルミが主流でした。
お弁当箱などはアルミでしたよ。
缶ジュースなどはスチール(鉄)で、ペットボトルのようなプラ製品が出る前のお話です。
わたしは父が「プラッチック」と言うたびに「変な発音やな」と思っていました。
アルミニューム
アルミニュームとは、アルミニウムのことです。普通はアルミと略していたのですが、父の主な仕事がアルミニウム加工でした。
父の伝票にはいつも「アルミニューム」と書いてあります。ウソやろ。またまた変な発音やなぁと思いました。
横文字は苦手な戦前生まれ。仕方がないのかも。
ステンレース
ステンレースとはステンレスのことです。父は、ほんとうに変な発音をしていました。
台所の流しが、タイルからステンレス流し台に変わりゆく。そんな時代をかさね、浴槽もステンレスに。
錆びやすい鉄より使い勝手がよくて。
でもなんでレスをレースと引っぱるのか? なんか間違ってるな。
父のヘンなクセがまた。
やがて父の工場も、だんだんと仕事がなくなりました。それを見越して、先に一軒家を買ったのでしょう。祖母が他界し、工場をたたみました。
それから父は、一軒家で好きに老後を過ごしていました。自営業なので退職金もなく、ほそぼそと。
さらさらと記憶がなくなり、
命が……とぎれてしまうまで。
答えの看板
そしてわたしは、空っぽになった一軒家を継ぎました。
不器用な職人の父と、変な発音。
ときどき思い出しながら、鉄分補給の散歩をします。
町工場の多い下町。いまでも個人経営の鉄工所・金属工作所などが多いのです。扉を全開にして、暑いなかの作業。
見えます。わかります。父も暑い、ツラいと言っていた……。
最近、古い看板を見つけました。
「アルミニューム」「ステンレース」
なつかしいコトバ!
もしかしたら業界では普通の言い方だったのでは?
父の発音、間違ってなかったの?
ごめんなさい!
それとも、たんなる方言?
町工場の鉄のにおいと蝉の声が手まねきした。
いつも こころに うるおいを
水分補給も わすれずに
さいごまでお読みくださり、
ありがとうございます。