靴と人生について
新年に靴を下ろそうと用意していたトリッカーズを大晦日にプレメンテし、準備をはじめた。
新品時のWaxなどを落とし、デリケートクリームで、外側、中側を保湿する。
硬い革はみるみるクリームを吸い込んで行き、なかなか保湿されないので手間取った。
人生には靴が必要だ。
良い靴は足下を彩り、そこから上のパンツやジーンズ、ジャケットやシャツまで影響を与える。
ビジネスシューズを履いて、ジーンズを履く人はだから居ないだろうし、スニーカーでスーツも可笑しな物だろう。
良い靴を買うだけで、必然、服にも気をつかうようになる。だから足下は重要な意味を持つものだ。
そして靴ひとつで人生というのは変化と潤いを与えてくれるのではないか?と思うのだ。
とかくうるさいマナーやルールは嫌いだが、案外それは基本を教えてくれる教科書でもある。
ビジネスや冠婚葬祭には、内羽根の靴でなければならないだとか、ドレスシューズや、ワークブーツ、カントリーブーツに、セミドレス、山程ある種類はその環境から生み出された意味と意義と歴史がある物だ。
そんな事を知る事そのものが楽しいとも言えるし、そもそも趣味や物事の深さとはそうした事の繰り返しから存在する人生に彩りを与えてくれる物だろう。
トリッカーズを知る人の中でおそらく誰もが知る靴がこのカントリーブーツだろう。
英国で農作業や、様々な外での作業の為に設計されたいわゆるアウトドアブーツで、頑強でいてジーンズにもよく似合う。
同じ形で、ストウとモールトンという二つのモデルがあるが単に革質の違いで、モールトンのほうが近代的なコーティング革を使い、濡れなどにも強く、ストウの方は昔ながらの革が使われている。
僕のはストウだが、こっちを選んだのは足の馴染みが早そうだからだ。
もう何を買った所で、僕の年齢ではほとんど一生物になるのだが、靴は30年も後はもってくれたら僕の方が先にこの世にはいないだろう。
僕の持っている靴は大抵はグッドイヤーウェルト製法で作られた物で、底の張り替えどころか、ウェルトの張り替えも可能なので、捨ててしまったり履き潰す事は起こらないし、そうして何年もかけて集まった靴は一日履いたら3日以上は履かずに休ませてやると言ったルールにも対応可能なのだから、そうはダメにはならない。
本当はダメなのだが、早く馴染んで欲しいので、下ろした靴はしばらく毎日履いてしまう。
特に硬い水分の抜けた革は、そうして馴染ませてしまう事が多い。
近くの神社に初詣に初めて履いて行った。
思ったよりアッパーは痛くなる所もなく、コルクの敷き詰められた底に硬さを感じる。
想像してみて欲しい。
新たに一歩を踏み出したこの靴は、いったい何キロ、何百キロ、何千キロ、僕の足を守り供に時間を過ごすのだろうか?
カントリーシューズだけに、キャンプや旅で、いくつもの物語の中、僕の足を守り続ける訳だ。
エイコンのカラーは変わり、柔らかく足に馴染み、何度となく手入れされ、僕とともに歩き続けるのだ。
トリッカーズに限らず、靴とはそうした物だ。
良い靴を買い、靴に合わせて服を選び、人生を歩き続ける。
僕が生きた証の中に、人との出会いの中に必ず、様々な靴があるだろう。
それにしても足音が最高だ。
独特の足音が真夜中の街に響く。
この音を聞きながら、歩き続けるのだ。
そう、人生という時間は焦りすぎず、時の流れと同じ速さで歩んで行けたらいい。
最高じゃないか?靴ひとつでそう思えるのならば。