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読書記録(歴史)『八条院の世界 武家政権成立の時代と誇り高き王家の女性』

永井晋著 山川出版社2021年

【目次】

鳥羽院政を継ぐ者
第1章 鳥羽院政の後継者
1 鳥羽院の愛娘
2 美福門院院号宣下
第2章 保元・平治の乱
1 保元の乱
2 二条天皇即位
3 鳥羽院の遺志を継ぐ者
4 二条天皇即位と平治の乱
第3章 八条院院号宣下から以仁王事件まで
1 八条院院号宣下と二条天皇親政
2 静かなる日々の始まり
3 以仁王挙兵前夜
4 以仁王挙兵
第4章 新たな時代の始まり
1 平氏が都を守っていた時期
2 木曽義仲をめぐる問題
3 平氏追討の時代
4 新しい家族九条家
第5章 しずかなる晩年
1 大病をしてみえてきたこと
2 藤原定家がみた八条院御所
3 八条院の晩年
4 最後の日々
第6章 八条院を取り巻く群臣たち
1 村上源氏
2 八条院のそばにいた人々
3 八条院の群臣
八条院の世界
あとがき
◆付録 人名索引/参考文献/年爵一覧・関係年表/系図集

【概要・所感】

平安時代の末期、治天の君たる後白河院に並び立つ権威、権力を誇った異母妹の八条院。父鳥羽院と母美福門院の鍾愛を一身に受け、后位を経ない独身の皇女という身でありながら、上皇に准ずる女院という地位についた彼女の生涯を詳述している。
その時々の実力者を利用しつつも、都合が悪くなるとあっさりと切り捨てるという非情さを持つ兄の後白河院に対し、妹の彼女は普段より累代の家臣や女房に支えられながらも、彼らが危機に直面した際には徹底的に守るという親分肌なところ、頼れるアネゴという感じが対照的である。彼女は天皇親政派等、後白河院と対立する勢力にとっては最大の庇護者ではあったのだが、彼女自身は後白河院とは良好な関係を維持していた。
また、彼女は側近の女房三位局が夫とした、後白河院の皇子以仁王や摂関家出身の九条兼実の子女らを養子として自らの御所に引き取り、家族として、更に自身の後継者として手厚く遇したが、いわば入婿のような立場にあった以仁王や九条兼実については、関係が順調なときは良いが、彼らが政治的に失脚したときには、意外とドライに切り捨てている。このことは、特定の勢力に肩入れし過ぎて共倒れすることなく、動乱の時代にあって八条院という独特の世界を保持し続けることができた秘訣であったのかもしれない。
西洋でも中国でも、皇帝や国王の娘というのは、父や兄の庇護のもと、政略結婚の具として男性中心社会の犠牲者といった印象が強いが、この八条院をはじめとした女院や、さらに古代の女帝など日本の天皇家の娘たちはどうも世界史的な基準から外れた存在であるような気がしている。

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