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読書記録(歴史)『天皇家と卑弥呼の系図 日本古代史の完全復元』
澤田洋太郎著 新泉社1994年(六興出版1989年)
【目次】
まえがき
1 卑弥呼の名のある系図ー海部・尾張氏とは古代史完全復元の試み/『魏志』と『記・紀』をつなぐ二つの系図
2 天女の羽衣ー丹後に降りた豊受大神
アマテラス神話の再検討/トヨウケ大神と海部氏/羽衣伝説の意味
3 白鳥は豊の国からやって来たー地名の大遷移による証明
全国に展開した海部氏/「地名の一致」は「人間の移動」の証拠/海部氏・尾張氏の原郷
4 猿田彦の石偶ー天孫降臨の道すじ
日田こそ「天の八衢」だ/日田は弥生遺跡の宝庫/日田こそ本来の日向の国/宮崎に追われた日向の国
5 炎の中から生まれた三火神ー日向三代の神話の背景
「天孫降臨」とは何か/海幸・山幸神話は隼人征服譚/「トヨの国」と天神族/「日向三代」史実と神話の狭間/「隼人焚殺」事件がらあった?
6 入り婿による王朝ー「欠史八代」の実在性
「欠史八代」は物部系の母系王朝/海人系とも考えられる
7 魏の使者が来たころー邪馬台国の引っ越し
松浦半島上陸説は誤っている/伊都国は内陸にある/邪馬台国は宇佐に移った/已百支国と五百木入彦/邪馬台国の旁国を比定する/吉野ヶ里は華奴蘇奴国?
8 宇佐・香春・行橋を結ぶものー金属精錬と天の日矛
三つの聖地/天祖の都と豊日別神社/香春神社祭神と天の日矛/伊都国は日矛の建てた国だ
9 初国しらすスメラミコトー邪馬台国の分裂と崇神天皇
歴史的叙述の出発/水沼王=崇神の東遷/「崇神記」の史実性/イリ王朝の謎
10 日子坐王の謎ー近畿北部の対抗勢力
「垂仁紀」の虚構性/ヒコイマス王に操られた大和王朝/ヒコイマス王はヒボコの孫か
11 「タラシ王朝」の足跡ー大和王朝の拡大
全国平定者としての景行天皇/熊襲征討説話の真相/ヤマトタケルの実像/タラシ王朝の役割/仲哀天皇は架空の大王
12 宇佐女王の秘密ーその後の邪馬台国
八岐大蛇退治は宇佐の出来事だ/宗像三女神は応神天皇の后妃/イザサワケの名前交換/伊勢神宮の起源はトヨの国
13 息長足姫と武内宿禰ー作られた巨人の像
オキナガ・タラシ姫はヒボコの子孫/武内宿禰の出自を探る/神功皇后は非実在、オキナガ・タラシ姫は実在
14 「応神東遷」の実像ー統一王朝の成立
実力者ホムダ・マワカ/応神天皇は誰の子か/「応神東遷」の演出者たち/「応神東遷」こそ「神武東征」だ/東北に追われた旧大和勢力
15 「倭の五王」の時代ー「応神王朝」の実像
仁徳天皇は実在しなかった/「倭の五王」の対外政策/血で血を洗う「応神王朝」
16 筑紫の磐井の乱ー欽明王朝は征服者か?
継体天皇の謎/欽明天皇は誰の子か/任那派兵と磐井の乱の意味/蘇我氏が大王を交替させた
17 蘇我氏と藤原氏ー新生大和王朝を支えたもの
欽明天皇は外からやって来た/蘇我氏の世紀/中大兄と大海人は兄弟ではない/大海人の出自は?
18 「日本」の誕生ー東アジアの世界の中で
「日本」をめぐる東アジア/「倭国」の登場/古代日本人はバイリンガル/渡来人の派閥抗争としての「壬申の乱」
19 『古事記・日本書紀』の成立ー神話の構成
『記・紀』編集の基準/「国産み」の意味/アマテラスとスサノオ/"日本虚紀"の編集意図/「日本・ユダヤ同祖論」は成り立つか
20 倭人社会の形成ー考古学や人類学から見た原日本
日本の原風景と縄文人/朝鮮半島から来た弥生人
むすび
新版あとがき
参考文献
【概要・所感】
本書は、伊勢神宮下宮の祭神豊受大御神が現在地へ遷る以前に祀れられていたという伝承の残る、京都府宮津市の丹後国一宮籠(この)神社伝来の国宝『海部氏系図』と、『先代旧事本記』所収の『尾張氏系図』の共通性に着目し、系譜中の二人の「日女命」という人物を、『魏志倭人伝』が伝える邪馬台国の女王卑弥呼と台与に比定。これを『記紀』の天皇家の系図と繋ぎ合わせることにより、日本古代史の完全復元を企図したものである。
また、従来から行われていた地名の検証をさらに精緻に行うことにより、『魏志倭人伝』が伝える邪馬台国への行程検討の常識とされていた、末盧国=松浦、伊都国=糸島という前提に疑問を抱き、新たな比定地を結ぶことで、邪馬台国=宇佐という新説を提示する。
さらに精緻な地名の検証は、籠神社のある丹後半島を始め、ヤマト王朝が畿内に拠点を遷していったルートを明らかにしていく。
奈良時代、道鏡の皇位継承を巡る託宣事件の震源となった宇佐神宮。ここに邪馬台国があったのだとすれば、なかなか発掘調査は難しそう。謎は謎のままに。