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「私たちの望むものは」小手鞠るいさんインタビュー

本物より夢中にさせてくれた7年ぶりの恋愛 小手鞠るいさん『私たちの望むものは』

2020.5/18 20:00

zakzak by 夕刊フジ


 『欲しいのは、あなただけ』など恋愛小説の名手として知られる小手鞠るいさん。昨年は『ある晴れた夏の朝』で小学館児童出版文化賞を受賞するなど児童文学にも活躍の場を広げている。7年ぶりに恋愛小説『私たちの望むものは』を上梓した。(文・井上志津)

 --『美しい心臓』以来7年ぶりの書き下ろし恋愛小説ですね

 「『星ちりばめたる旗』『炎の来歴』などアメリカと日本、戦争と平和をテーマにした作品にかかりっきりになっていて、間が開いてしまいました。その間も構想は温めていたのですが」

 --ストーリーは最初から決まっていましたか

 「割とかっちりと決まっていました。2人の登場人物が現在と過去を、アメリカと日本を行き来しながら、互いの人生と恋愛を語りつつ進んでいく万華鏡のような物語。苦労したのは語り手となっている『僕』の人物造型でした。彼の性格や、彼を千波瑠にとってどんな存在にするか、それを思いつくまで試行錯誤しました」

 --主人公は50歳の女性、千波瑠です

 「千波瑠はノートの1ページ目に言葉を書き残します。『もう若くない きれいでもない ある朝、鏡を見てそう思ったとき 人生は終わっているのだろうか』。アメリカでは50歳の女性は『若い女性』なんですよ。でも悲しいかな、日本ではそうはいきません。日本社会の女性に対する年齢差別にはかねてから閉口しています。女性は年を重ねるごとに成熟し、美しくなっていくんだよというメッセージを込めて千波瑠という女性を描きました」

 --タイトルはフォークシンガー・岡林信康さんの歌から取っています

 「私は休憩中、よく1960年代、70年代のフォークソングを聴くのですが、たまたまこの歌を耳にして、これをタイトルにしようとひらめきました。この歌は私の青春時代に流行っていたので昔から知っていましたが、当時はまだ10代だったので、歌詞の意味は理解できていなかったと思います。このタイトルにした理由は、小説を読むと分かっていただけるのではないかと思います」

 --7年ぶりに恋愛小説を書いた感想は

 「とても楽しかったです。無我夢中で書きました。文字通り、寝食を忘れてという感じでした。恋愛小説を書く醍醐味は、実際の恋愛よりも私を夢中にさせてくれるところです」

 --小手鞠さんの恋愛小説に登場する主人公の恋愛相手の男性は、みな関西弁で男らしく、長髪で性欲旺盛で、ズルいという印象があります

 「長髪かどうかは別にして、その他は当たっています。最も大きな要素は関西弁だと思います。私は関西弁を話す男の人に、なぜか男の色気を感じてしまうのです。個人的な好みというしかないですね。東京弁を話す人を書いていてもちっとも燃え上がりませんが、関西弁に変えたら一気に燃えてくるのです。最愛のアメリカ人の夫の母国語は英語なのですが…」

 --37歳でデビューしたものの売れず、49歳で島清恋愛文学賞を受賞するまで苦労したそうですね

 「ほとんど意地と根性と執念で続けました。『あきらめるのは1秒でできる。その仕事が好きだったら、絶対にあきらめちゃだめだ』。『詩とメルヘン』の編集長で私の恩師であるやなせたかし先生にいただいた言葉です」

 --児童書から恋愛小説までジャンルを問わず書ける秘訣は

 「これしかできることがないということです。書くことが好きで、書くことしかできないのです」

 --今後の抱負を教えてください

 「書けるものなら何でも書くのが私の方針です。何でも書いて、死ぬ日まで書く。私の理想の人生です」

 --本書を手に取る人にどんなふうに読んでもらいたいですか

 「恋愛小説が好きな人にも、嫌いな人にも読んでいただけたらうれしいです。恋に泣いたことのある人にも、幸せな結婚をしている人にも、もう自分は恋愛には縁がない、という人にも。『不倫なんて最低』と思っている人にもおすすめしたいです。私は人に、恋愛も不倫も特におすすめしませんが、恋愛小説や不倫小説はすすめます。こんなに面白くて、楽しくて、美しい物を読まないなんて、損だと思います(笑)」

 ■小手鞠るい著『私たちの望むものは』(河出書房新社 1800円+税)

 『僕』の子供のころからの憧れだった叔母・千波瑠。小説家志望だった彼女がニューヨークで1人、亡くなった。遺品を整理するため、僕は彼女が暮らしたニューヨークのアパートに行く。そこには彼女の秘められた一つの恋があった-。

 ■小手鞠るい(こでまり・るい) 1956年、岡山県生まれ。64歳。同志社大学法学部卒業。詩人、小説家。81年「第7回詩とメルヘン賞」受賞。詩作のかたわら小説を執筆し、93年『おとぎ話』で第12回海燕新人文学賞、2005年『欲しいのは、あなただけ』で第12回清恋愛文学賞受賞。主な著書に『玉手箱』『エンキョリレンアイ』『アップルソング』『星ちりばめたる旗』『炎の来歴』『瞳のなかの幸福』『空から森が降ってくる』『窓』など。米ニューヨーク州ウッドストック在住。

https://www.zakzak.co.jp/smp/lif/news/200517/lin2005170002-s1.html

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