詩:Flow of Water
川の流れに身を任せて漂っていた頃は
よく、水の中から空を見上げていました。
空が変化してゆくのは
雲が動いているからか、私が動いているからなのか。
それは、
自分にとって大事なようで、
どうでもいいような、
辿り着きそうで、
はるか遠くにある秘密。
そういうことが不思議でしょうがなくて、
水の中の、音のない世界で
空を見上げては、
遠くまで想いを馳せました。
それでも、
それなりに上手く泳げるようになってきた頃には、
そんなこともどうでもよくなって
なにごとも「こんなものか」と思うようになったのです。
急げ、急げ、
もっと、もっと…
そうやってどんどん早くなる流れについて行くのも、なかなか難しいものです。
美しく泳ぐにはバランスが必要だし、
一緒に泳いでいる仲間とぶつかると、
簡単に傷ついてしまいます。
急げ、急げ、
もっと、もっと…
気がついた頃には、
もう止まれなくなりました。
少しでも立ち止まることが、怖いのです。
止まってしまったら、
置いてきぼりにされてしまうような気がして。
何か、今まで見ないようにしていたものが、
見えて来てしまうような気がして。
けれど、私はもう、
完全に疲れ切ってしまったのです。
臆病な私は、もうひと漕ぎも
できなくなってしまったのです。
ある日、
私は諦めて、全身の力を抜きました。
からだは
沈んで、沈んで、
川の底に足が触れたから、
初めて、足をついて
水の外に顔を出してみました。
肺に流れ込む空気、
耳に届く森の音、
足裏に触れる土の温もり。
私はそのとき、
静止した世界の中にある
もう一つの世界を知りました。
あぁ、そうか、
空は、流れている。
私も、流れている。