転職は越境学習のひとつか
先日の記事に対していただいたコメントから思うことがあったので、記事を書きつつ考えてみようかと思います。
キャリアなんか考えさせたら会社辞めちゃう
私が勤めている会社は外資で、新卒を採用しません。
社員は他社から転職で入ってきた人たちばかりなので、当社を紹介してくれた人材エージェントと常に繋がっており、LinkedInに登録してる方も多く、当社が気に入らなければさっさと辞めます。
そんな会社ですけど、若手向けのキャリア研修はまだ開催できていません。なぜならば企画担当の私自身が怖かったからです。
「キャリアなんか考えさせたら、会社辞めちゃうんじゃないか」って、やっぱり思ってましたから。
先日の投稿に頂いたコメントのなかに、
半分くらいの経営者さんは「キャリアなんか考えさせたら会社辞めちゃうじゃないの」「寝た子を起こすなよ」と言われます。
とありまして、人事としての私もそう思っているなあ、と思ったわけです。
キャリアコンサルタントの私と、人事マネジャーの私。
どちらも存在して、どちらにも影響しあってるんですよね。
外資における「キャリア研修」
外資でキャリア研修に力を入れている会社って、あまり無いんじゃないかと思います。
外資では、MUSTな研修は本国からの指示で受けることが多いです。
最近多いのはコンプライアンス関係のe-learningで、それらは本国で用意され、日本語に訳されたマテリアルを用いています。
しかしキャリア研修なんてものは、本国で用意されたためしがありません。
先日、インターンシップで来日したヨーロッパの大学生に、日本のキャリア研修のショート版をレクチャーしました。
内容に面白さは感じてくれたようですが、「なぜ会社でこんな研修をするの?」というのが主な反応でした。
そりゃあ、そうですよね。
欧米の子供たちは内容や結果がどうあれ、自分で考えて自分で決定するのが当たり前だと思っていて、「会社や周りの人がキャリアを用意してくれる」なんて思いもしないんですもの。
「あなたの人生はあなたが決めないといけないの」
「会社や周りの人が用意してくれるような時代ではないの」
というメッセージのこもったキャリア研修には、「?」って感じだったでしょうね。
日本ではまだまだです。
自分が何も言わなくても、その時期になれば会社が何かしらの線路を用意してくれると思っている社員は、まだまだ多いです。
シニアにも、若手にも。
だからこそわたしはキャリア研修を開催して、
最後は自分で考えるしかないんだって話しているわけですが。
それでも若手向けには企画開催していなかったんですね。
研修理由でやめちゃうかもしれないって思っていたから。
転職は越境学習になるか
ただ、最近思うことがありまして。
というのは、昨年あたりから社会的に人材不足感が極まってきたな・・・とみなさんもお感じだと思いますが、当然、当社にも波が訪れており、退職される方が多いと感じるんですね。
しかも、当社が適切なポジションを提供できてない方々が退職されてしまっている。
当社にも人間関係にも何の不満もないけれど、社内で適切なポジションが得られないから他社に行く、というわけです。
すごく残念だ。
どうして社内でポジションやプロジェクトを作れないんだ。
と思うとともに、
この成熟した日本経済のなかで、そんなに簡単にポジションやプロジェクトを拡張していけるわけがないとも思うわけです。
マチュアな経済、マチュアな業界で、それなりの給与を払っていこうと思ったら、ポジションは絞られますよね。
とくに外資はFTEにうるさいし。
だったら、その方々が社外に出て、適切なポジションで新しいプロジェクトに取り組み経験を得るほうが、絶対にその方にとっていい。
これは前向きな転職だ。
そう思うようになったんです。
ある意味、転職は越境学習になるんじゃないかと。
越境学習の定義
越境学習というのは、企業の外にある研究会や勉強会、あるいは社会人大学院などに通うというのが一般的な定義とされています。
石山恒貴先生の本や記事を読むと越境学習とは、
自分にとってのアウェイの場所に身を置いて、これまでとは異なる価値観・考え方などを経験し、自分を成長させる学習機会
というように思えます。
ただ、越境学習っていうのは「必ず戻ってくる」ことを意味しているそうなんですね。ホームとアウェイを行き来することでのホームへの関与・影響も含めて学習ってことなんでしょうね。
最近よく言われる「アルムナイ制度」(カムバック制度や出戻り制度とも呼ばれているらしい)で、成長したOB/OGに戻ってきてもらえるのであれば、そして良きタイミングで彼らに適切なポジションを提供できるのであれば、それは越境学習であったと言えますね。
当社でもカムバックして再入社される方はたくさんいます。
全員ではないですが。
戻ってくる場所
必ず戻ってくる・・・という言葉で引っ掛かるのは「社内転勤」です。しかも国をまたがった転勤。いわゆる海外赴任です。
本国から他国へ赴任するのは、多くの場合、小さな組織に赴任することで本国ではつけないポジションに就いて、経営やマネジメント、そして英語やグローバルな観点を学ぶ機会だったのでしょう。
ただ、今は海外でそういった経験を得ようとする若者が減っているみたいです。ドイツやシンガポールでもそうだと聞きました。若者が内向き化していると。もちろん日本でもそうですね。
その理由はおそらく、「戻ってきてもポジションがない」ことが多いからです。海外の企業でも日本の企業でも関係なく、成熟しきった業界・会社であれば戻ってきてもポジションがないことが多いんです。あっても足りない。
おかしいですね。
海外赴任って完全に越境学習だと思うんですけど。
越境学習だって戻ってくる場所がないじゃないですか、社内に。
でも、いったん社外に目を向ければ生かせる場所がありますよね。
アウェイで得た価値観、考え方を生かせる場所はあるんです。転職すれば。
転職はゴールではない
最初に書いたように、当社は新卒を採用しません。
他社で新卒採用され研修を受け大切に育てられた社員が、別の場所で成長したいと感じて退職し、当社に入社してきてくれたわけです。
うちでポジションがないために退職する人たちは、会社の雰囲気も人間関係も良くて合っていると感じてくれていて、数年後の再入社も実際にあります。
よく考えたら、うちの会社はすでにそんな会社です。
越境学習を受け入れている会社ではないですか。
なぜ若手向けキャリア研修に怖気づいていたのか、わたしは。
本国はキャリア研修なんて用意していませんが、社内でのキャリアの探し方についてはグローバルな社内応募制度、各種研修などのツールを用意しています。
自分がどうなりたいのか、
自分の特性が何を求め何に耐えられないのか言語化できたら、
社内でそれを追求できるかを考え、アクションを起こす。
そこで本国の用意したツールを活用する。
アクションを起こし成長したその先に越境学習としての転職があるなら、それでもいい。
越境学習としてとらえられる人であれば、新しい価値観を得て成長できるんだから。
機会があればその越境学習を終えて、この人は戻ってくるんだから。
そう考えれば若手向けキャリア研修だって企画できそうです。
転職はゴールではないです。
社会全体で見たら、本当にそれはひとつの学習の機会ですもんね。
・・・
といいつつも、こんな考え方はカウンセラーではありえないような気もします。私はやはりカウンセラーには向きませんね。
カウンセリングはできないけれど、キャリア研修はできそうなキャリアコンサルタントとして、こつこつやっていこう・・・と思います。