読書メモ:定年前と定年後の働き方~サードエイジを生きる思考
著者の石山恒貴さんは大学教授で、そのためか?この本も新書サイズではありますが、なかなかアカデミックです。自分や自分の周りのデータだけで書くのではなく、一定数の事例研究に基づく理論を中心に置いています。
エイジングパラドックスと加齢への適応思考
エイジングパラドックスというのは、「高齢期に様々な精神機能・身体機能が低下するなどのネガティブな状態を経験するにもかかわらず,幸福感は低下しにくいという現象」のことで、この言葉自体はシニアに関する研究では一般的のようです。
シニアが加齢にいかに適応するのか、という問いへの答えとして、この本ではいくつかの理論があげられていますが、代表的なものが下記の2つです。
SST理論(Socioemotional Selectivity Theory)
人生は有限である。だから大事な人との時間、自分の興味のあるところに注力する、いわゆる伊能忠敬的アクション。ミドルシニアまで自分をしばりつけていた楔から解き放たれ、自分の興味のある就労、ボランティア、NPO、学習、趣味などに注力するので幸福感が上がる。
SOC理論(Selection Optimization with Compensation Theory)
衰えていくことを自覚しながら何か新しいことを獲得する。新しい重要な目的を選択し、新しいスキルとリソースを習得することにフォーカスし、サポートやリソースを使い、優先順位を決めて努力する。(老化を補う)
老化を自覚し受け入れ、肯定していく「自己調整」のプロセスにより、幸福感が上がる。
たとえば、私は「遊ぶ金欲しさに働く」が信条で、定時に上がり趣味に時間を費やしています。それはSST理論っぽいですね。
会社の中では自分のメインの業務であり、海外との接点もある「報酬・制度」は若手に引継いでいくことにしており、そのかわり数年前からキャリア研修を自発的に企画し、年に数回実施しています。そのために勉強したり本を読んだりを続けている。これはSOC理論っぽいです。
定年後のシニア労働者の選択
「年金生活者になっても働かなくちゃいけない人々」みたいな番組をテレビで見たりするんですが、ずっと余計なお世話だなって思ってました。
食べていけないから働いたって、趣味にお金がかかりすぎるから働いたっていいじゃん。趣味も人生もひとそれぞれなんだから。
著者も言っているんですが、結局シニア労働者がどのように働くかについては、各人がその価値観で決めればいいことです。
著者によると、今は会社員、フリーランス、週2~3日の労働などを組み合わせる「モザイク型就労」が進んできており、今後ますます増えていくのではないかとのこと。
定年再雇用まで勤め上げた会社で週3働く+フリーランス
転職先で週3働く+ギグワーク(ココナラでのスキル販売など)
モザイクの中には、ボランティア活動、NPOなどもはめ込まれることもあるでしょう。
越境学習のススメ
著者は、シニアに対して定年前と定年後に越境学習を経験することをお勧めしており、それがシニアが働き方思考を獲得していくきっかけになると考えています。
著者にとって越境学習とは自分をアウェイと感じる場に置いて学ぶ、ということです。
チャールズ・ハンディという方の「人生の4つのワーク」という理論を紹介し、曰く
有給ワーク:雇用・自営・副業など(payをともなうもの)
家庭ワーク:家事・育児・介護など
学習ワーク:学び直し・趣味・サークル・社会人大学院など
ギフトワーク:ボランティア・地域活動・社会活動など
シニアはこれらを柔軟に、モザイク的に組み合わせることが可能になり、自分にとってアウェイと感じられる場での経験を得て、学習することができる、ということですね。
サードエイジを幸福に生きる
エイジングパラドックスという幸福論から始まり、幸福感を感じるためにシニアはどう考えて働けばいいのかを、理論と実践例を交えて書かれた本ですが、とても刺激を受けました。
220ページくらいの新書ではありますが、自分自身のこれからを考えるうえでも役に立つ、ぎゅっと情報の詰まった本です。
また、読書メモとして書ききれませんでしたが、組織としてのシニアへの取り組みについても書かれ、キャリア研修をデザインする人事ウーマンとしても、とても参考になりました。
今後も手元に置いておきたい良書に出会えました。