思惟。

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摩擦にも似た優しい熱

「愛はどこにも行かない」 そんなセリフをどこかで聞いた。 フィクションの世界か、友人の言葉だったか。 もしくは、かつての恋人の声だったか。 あるいは、すべてが夢の中だったのかもしれない。 道中、川端に座って風鈴のように足を揺らすと脈打つ生水の冷たさに走る胸の痛みが今も鮮明に懐かしかった。 私は、目を閉じて真っ黒な川に白昼夢を浮かべた。 夢路 アルコール混じりの冷水が喉を伝う。 唇に触れる氷が痛いほどに冷たい。グラスの中の氷塔が小さく崩壊し甲高い音が鳴る

    • 珈琲に詩を3g

      溺れるサナカ じわじわと身体から水分が抜けていく、熱を通しても水に溶けていく深海魚みたい。 この世は巨大な鍋の中に存在してると思わせる。 ペットボトルの結露が指を伝い、コンクリートに小さな足跡を残した。 さては、この地球も深海魚の中だったりして。 どうでもいいことが溶けていく最中、それが大事ななにかに見える。 喉は乾いているが、溺れそうになる。 白昼夢のなかで言える 陽の射し込むリビングでトーストを焼いている。 近所からは、改装工事の木材を打ち付ける音が響いてる。それが

      • 十月のセミ。

        羽化をするように旅をする。 知り合いと遭遇するという予感を捨てて、伸び伸びと知らない街を練り歩く。 急ぐことをやめて、のんびり向かうことにする。 少年と父親が、窓の外の情緒ある景色を眺めている。 少年のくすんだ足裏が、こちらを見つめている。 窓の奥で流れる景色を背景に、ゆっくりと流れていく愛を目の前にしている。 停車駅で空いた席には、親子の温度が微かに残っている。 少年の服、バターチキンカレーに添えられたコリアンダーの葉のような色あいだったな。 到着。 考えてみると、最後

        • 夢の中、外の現実。

          カウンターテーブルで、横一列に、僕の姿形をした四人が座っている。 みんな、目を閉じて話している。 動く口から、泡に消える声。 みんな、夢を見ている。 夢は現実に持ち込めないらしい。 街の明滅する光が、のぼる泡に重なる。 初雪が上に昇っていくようだった。 顔を見合わせているというのに、誰もが独り言みたいに口を動かしている。 深夜、電子レンジの唸る音で目が覚めた時、それがなぜだか心地よかったことを思い出した。 排気口から漏れる褐色の灯りを眺めて、起きていれば、この時間がずっと続

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        摩擦にも似た優しい熱

          換気扇の隙間から。

          私の頭部をショットガンで撃ち抜いたなら、最後には背中に伝う血液の冷たさだけが残るのだろうか。 早まる心臓が、肋骨を融解していくようなカタルシスを感じた。 換気扇の風切り音に意識が吸い込まれていく、風など吹いていないが、イメージの中で涼しくなった。 換気扇の下、喧騒のような無音のなか静かにハイになる。 換気扇の隙間から見える暴力的なまでに美しいサーモンピンクの空が好きだ。 血液すら溶けこんでしまいそうな空。 隣に付き添う死も今だけは友達と言える。 僕は臆病な性格をしている。

          換気扇の隙間から。

          孤独詩わたし。

          生暖かい空気、草の匂い、傾いた街灯。 汗ばんだ額と背中に、風が吹いてほしいと願うも、時間が止まったかのような無風と景色が続く。 鳴いている蜩が唯一、時間が動いていることを伝えてくれているみたい。 いつか、微かな感情の浮き沈みで儚く忘れ去られるこの瞬間の景色を食べてしまいたいと思った。 汗ではりつく服の不快感を忘れてしまうくらいにはそう思っている。 写真は撮らないけれど、詩を残してみる。 ぼーっと歩くだけ。それだけでいい気がした。 それが、詩なのだと思ってみる。 詩は景色に見

          孤独詩わたし。

          夢の中の夕食

          死後、君の膣を唐揚げにして食べるという約束を交わした。 蝸牛が交尾するように交差した小指は、少しの力を加えると、ほどけそうなほどに情けない。 その瞬間の熱だけを大事にした、刹那的に忘れ去られていく口約束だと思っていた。 壊れたチャイムの乾いた音が部屋を走る。 「宅配便ですー」 スズメの声をよそに扉を挟んだ抑揚のない機械的な声に目を開くと、視力を失った電球が無情な瞳でわたしを見つめていた。 ここが現実だと判断できたのは、ドア越しの声ではなくカーテンの隙間からどろどろとした朝焼

          夢の中の夕食

          空間が痒い

          昔、触れたもの全てが痒くなる感覚があった。 日常生活に支障をきたすほどだったので、おそらく強迫性的ななにかだったのではと勝手に思ってる。指先で触れたものと神経が繋がったかのような感覚。物体に限らず、指先で触れた空気中すらもが痒くなった。 空間が痒い。 空間を埋めたい。 空間に見つめられてる。

          空間が痒い

          言葉と無音

          目を閉じる。かち、かち、と一定のリズムで時間がイメージになっていくにつれて、暗闇の中で、物体が動きはじめる。 大きいと思っていた秒針の音は、無音のそこはかとない大きさを知るほどに小さくなっていくような気がした。 暗闇だと思っていたまぶた裏は、アリス症候群のように伸び縮みする新奇な空間に変わっていた。 この空間に言葉などないが、言葉によく似ている。 相手に反射しなければその言葉の大きさも、形も色もわからないものだ。 無音の大きさに触れたい。 無音の色を見たい。

          言葉と無音

          溶ける目

          脳で捉えたものをそのままの純度で伝えることは難しいように思う。 同じものを見ているようで薄い皮膜に覆われて、まったく別のものが見えていたり。薄いが弾力はある、眼球の膜。 その内側を描きたい。 外ではない内こそが本当に伝えたいなにか。 沈黙は、それを鮮明に映すことがある。 言葉を介さずとも伝わってしまうもの、言葉にしなくても伝わるものは、より一層その人らしさを感じられる。 瞳の奥で静かに、かつ大胆に繰り返される言葉の選択の、葛藤と諦めがどろどろと瞳の奥で溶けていく瞬間はアリスさ

          吐瀉物まじりの。

          体調を崩した。音が煩わしい。 鬱色の細菌が視界を覆う。 感情に消費される体力すら大きく感じた。 そう分かってはいながらも、自身の生存を蝕むほどに愛を求めてしまうのは人間らしくもあるな、と。 愛を享受することにも体力を消費し、嬉しさのあまり白いゲロを吐いた。 口からごめんね。 愛してる。 口だけでごめんね。

          吐瀉物まじりの。

          温度のない手

          広島にてクリスマスを過ごした。 とは言っても、その意識は二人の歩く温度に容易く溶けていった。 別れ際、そういえばクリスマスだったねと思い出す。 綺麗に整えられたまえがみの方と待ち合わせをする。 僕も今朝に、長く伸びた触角が邪魔だったのでばっさりと切ってみたらこっちのほうがいいじゃん、と。 方向音痴なため、待ち合わせ場所のスターバックスに辿り着けず、迎えにきてもらうことに。 その間、焼き芋を購入して目印に"芋持ってます"と送信した。合流すると半分にして食べた。 二人の黒い格

          温度のない手

          だって、猫だから。

          お前の言葉は吐瀉物に混ざった毛玉みたいだったから目の前で吐いてみせた。 喉の奥に絡まる言葉を拒否するように洗い流すと喉がキリキリとした。 それから彼と連絡をとることはなくなった。 当然のことだ。 この石には、このくらいの力を加えると、おおよそこれだけ飛ぶだろうという感覚で生きている。 最近は慎重になりすぎて自発的な会話は少なくなった。つまるところ投げる石も見当たらない。 頭の中で考えれば考えるほどにつまらなくなる言葉が逃げ道を失って口から吐き出されていく。 ただ、ふっと、鳴

          だって、猫だから。

          多分、どうでもよかった。

          部屋が荒れたのは、好きと思える人間がいなくなってからだ。堕落して、惰性で積み重なるプラスチック容器のひとつも片付けられなかった。 唯一、動けたのは壁にあなたの写真を貼る時くらいだけど、孵化しない卵をあたため続けているような気分だった。もう、四年あたためている。 先日、とうとう部屋にゴキブリが出た。 壁から外れた写真の女性の目の部分で、テープに絡まり這っていた。 どうしよう、この嫌悪感の先にあなたがいる。 表情を変えないあなたが、僕を見ている。 悩んだ末に、写真ごと殺虫剤を

          多分、どうでもよかった。

          水族館の記憶

          同じ景色を見ていても、見えている色はお互いに違っているのが好きだな、と。 撮影した三枚の写真を見て思う。 その写真の二枚は水面を泳ぐ光ときた。 写真とは記憶の抜け殻のようなもので、のちに見返すと、鮮明に残った抜け殻に感情の宿し所が分からなくなる。 写真に残しすぎるのは、後々何も残らなかったりするんだと思った。 僕は勝手に、"抽象的に生きる"と言ってるけど、どの景色にも共通しそうな写真を見返して、記憶を探る作業は、鮮度を長く保つ手段とすら思っている。 とは言っても、いつかは全

          水族館の記憶

          -18℃の精子

          私の精子は、冷凍庫に保存されているらしかった。 電話越しに告げられる届かない気色の悪さに、僕自身を呪った。特に悪気はないらしい。 趣味、だそうだ。 食や風景を写真に収めることと同義だという。 僕という人間は昔から人を覚えることが苦手だったし、かと言って、誰かの記憶に残るような人間でもなかった。 そこに保存されている僕という人間像は時の流れとともに薄れ消えていくのではないか、忘れ去られるただの記念なのか。 右から左へと流れる電話の声をよそに、そんな不安を考えていた。 時々、悪夢

          -18℃の精子