ファミコン探偵俱楽部 笑み男が残念な10の理由(完全ネタバレ注意)
ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者を楽しんだ私としては、待ちに待った今作。しかし、評価は芳しくありません。
その理由をじっくりと考えてみました。
【1】ミステリドラマとしての構成が悪い
単純なトリックを解くだけの1ページミステリでない限り、ミステリをドラマとして成立させるには、結末に至る構成が大事です。
しかし、本作はそれがまずい。
よいミステリドラマは、探偵役が捜査する→新しい証拠が見つかる→容疑者が浮かび上がる→誤った推理が否定されるを繰り返していくうちに
少しづつ真相に近づく、要は「捜査によって真相に近づく感覚」が大事です。
ですが本作は、捜査の途中、犯人は誰なんだろう?くらいの所で犯人が出てきて死亡。最後に答え合わせです。
しかも登場人物で犯人である可能性がある人物はほぼ一人なのでメタレベルの推理では、意外性はありません。
結末に至るまでに真相のうち「どこまでを明らかにして」「どこを秘密にしておくか」の取捨選択ができていない気がします。
【2】主人公が最後までお客さん
主人公は探偵であり、警察の持っている情報を知ることはできません。
この設定を上手く使っているミステリもあります。それはそれでいい。
しかし、今作は特にそれを活かしているとは言えません。
最後までろくに情報も与えられず、何となくうろうろしていたら、事件解決の場に居合わせたお客さんという感じです。
主人公が主体的に動けないことでのデメリットを具体例で上げます
まず人物Tですが、Tには妹がいることが捜査の途中で分かります。
また犯人である「笑み男」は「えみこ」という少女と関係があることも、捜査の途中で分かります。
なら、まずTの妹が「えみこ」がどうか気になりますよね?
警察なら簡単に知ることができます。
実際に、Tの妹は「えみこ」でした。
Tは本名で、Tもその妹もきちんと戸籍がある人間なので警察なら確実に知っている事実です。
しかし、主人公には捜査はできませんし、誰も教えてくれません。
それでいてプレイヤーはまず妹=えみ子だと思っています。
そしてそうであれば、T=「笑み男」もほぼ確定です。
ここでプレイヤーにそう思わせておいて実は大どんでん返しがあるかと思いきやそれもありません。
ただシナリオの都合で知りたい情報を知らされないだけ。
これが主人公をお客さんにしている一因だと思います。
【3】「犯人」がただの狂人
狂人を装っているが、実はまともな人間というわけでもありません。
自分で自分の顔を損壊してるのでかなりヤヴァイです
刑事責任を問うことも難しそうです。
これをやられるとプレイヤーとしてはどう反応していいかわかりません。
信念による犯行であれば、信念の意味と、法を破ることの是非について考えることもできます
弱さによる犯行であれば、犯人に同情するかもしれません。
私利私欲のための犯行であれば、怒ることもできます。
しかし、狂気による犯行となれば、これは犯人は動物と同じです。
「もしも」はありません。
社会が悪いとか、環境が悪いとかそういう話はありますけど、人間ドラマになり得ない。
「犯人」としたのは、本件のメインの事件と犯人は、現在の事件であり18年前の事件ではないからなのですが…
【4】犯人が短絡的、やっぱお前なのかよ
こっちは現在の事件の方の犯人です。死体遺棄・業務妨害でしょうか?
過去の事件を捜査させるために、類似の事件を起こし、あるいは起こったように捏造し警察に捜査させるといったプロットはよくありますが
それにしても、犯人が短絡的過ぎませんか。
①18年間消えていた犯人が反応するという根拠も薄弱です
②またプレイヤ的にも、登場人物的にも18年前の事件と今の事件が同一犯人だと考えるのはやや厳しいと思います。
通常、その手のストーリーであれば「なぜ18年間事件が起こらなかったのか」がメインプロットになりますが、それと関係しそうな証拠もなかったので、ちょっと勘のいいプレイヤーなら、真相がわかりそうなものです。
そして、犯人。結局、お前なのかよ。意外性も何もないし、同情もできないので、最後手紙でしおらしく謝られてもなぁと思います。
【5】めぐみちゃんが笑み男に出会ったのは偶然?
あれ完全に偶然ですよね。呼び出されたわけでもないし。
犯人は、なぜあのタイミングでポンプ場にいたのでしょうか
【6】全く救いがない轟夫婦
まぁ好みの問題だけど、全く救いがないですね。
轟夫婦の発言は(脚本上は)完全にミスリードなんだけど、
全体の構成が甘いので、特にあそこまで轟夫婦を道化にする必要もなかった気がする。
「ああ、あそこ本当にうまく誘導されちゃったなぁ」という爽快感がありません。極端に言えばこれ(読者への貢献)があれば、作者は登場人物に対してどこまでも鬼になっていい。
そして、原因が「狂気」だと本当に何の救いもない。
物語上のケアもなし、というか出番も無して…
【7】ゲームシステムを活用できてない
手帳とか、犯人の名前を入力とか、全然活用できてない。
序盤は練習のために推理モードで使って練習をさせて、後半バンバン使うかと思いきや
全く使いません。
いやーゲームをさせてください
【8】「犯人」、いや誰お前
犯人と主人公は一切対峙しません
初対面の時点で死んでいます
やっと轟夫婦の話を聞いて、人物像が見えてきたかなと思いきや
これです。
これでは不完全燃焼ですよね
犯人の側面A、それとは違う側面Bを見せて、さらに深い部分C(本編の後日談的な内容)
を知った上で、犯人と対話して、最後、逮捕なりなんなりにして欲しい。
あるいは、主人公とニアミスするなり、妨害してくるなり、暗躍して欲しいです。あ、これは「笑み男」に対してです
まぁ現代の事件の犯人とその兄貴についてですが、これについてもラストは唐突感が否めない。
現代の事件の犯人に関しては同僚刑事に嫌疑を打ち明けたあと、まったく何もないままラストに突入ですので、やはり犯人を追い込んでいる感が全くないのが問題ですね。
犯人の側面A(18年前の事件の被害者)までは見えましたが、それと相反する部分、特に何でこんな短絡的な犯行に及んだのかの部分が捜査から全く明らかになりませんので、追い詰めている感が皆無です。
犯人の方から一方的に謝ってきてお終いです
推理小説には探偵(職業としての探偵でなく探偵役)が必要です。
一つは読者の代わりとして、もう一つは社会の代わりとしてです
ある犯罪に対して、犯罪者に対して、探偵がどのような言葉を投げかけるのか、それもまたミステリの醍醐味なのです
【9】幽霊アパート発見→入れません ハァ???
苦労して見つけた幽霊アパート
でも中に入れません
はぁ?コンプラでしょうか???
なんだろねぇ、意地でも主人公に捜査させたくないのかな
なお、部屋の中を見せたところでゲームの進行には影響はなさそうです。
いちいちプレイヤーの気持ちに水を差すんだよなぁ
ひょっとしてこのゲームを作ったのは久世刑事?
探偵が捜査をするなんてけしからん!探偵大嫌い
それが本作のテーマだったのだろうか。
【10】明石家さんまに弟子入り
やっぱり製作側がシステムを使いこなせてない気がする
手帳を使った推理もそうだし
調べるで出てくる虫眼鏡、いわゆるカニカニどこカニ?である(分からない人は「さんまの名探偵」で検索)
面白くなかったよね
ちょっとしたネタでも仕込んでくれたらいいのに。
前作が傑作すぎたかな?
PS
久世刑事がやたら視線を外すのは何だったんだろう。何かのトラウマだったのかなと予想してたけど、特にフォローなし。
ドラマツルギー上の欠陥→笑み男が襲う対象が十代の女の子→登場人物に十代の女の子がいない(モブにはいたけど……)
これのせいで「次に笑み男に襲われるかも」という恐怖ホラーものとしての緊迫感もなくなってるんだよね(そして、自室に籠っていたはずのめぐみちゃんが襲われる、いや、そうじゃないんだよ)
久世刑事だったら、適当に反撃できそうだし。
神原刑事→主人公怒鳴りつけて終わりかよ。ここも不完全燃焼。アンタの気持ちを聞きたいよ
んー製作の途中でなんかトラブルでもあったのか??」