短編ホラー「生駒山」
これは、僕の友達が実際に体験した話です。皆さんは、生駒山って知ってますか? 大阪の東側にある山なんですが、有名な心霊スポットなんです。あぁ、その山全体ではなくて、山道の途中にある「生駒山トンネル」です。お札が貼られていたり、立ち入り禁止の場所があるそうです。
友達は、その生駒山の北にある交野市というところに住んでいるのですが、本当に何もない田舎で、いつも遊ぶ場所に困っていました。
夏休みに退屈していたその友達は、一緒にいた友人二人に、生駒山トンネルに行ってみないかと提案したそうです。
するとその一人Aくんは。
「いやいや、あそこはやばいって」
Aくんは普段から見える質というか、霊感の強い人でした。
それに引き換えBくんは。
「面白そうやん! 行こうや」
車を用意すると言い出しました。
結局、不良少年Bくんの乱暴さに気圧されて、その三人で生駒山トンネルに行くことになりました。Aくんはずっと嫌がっていました。
広大な田んぼ道を抜けて、山の麓に差し掛かる頃には。「嫌や、俺は絶対行かんからな。ここにおるから」
そう言って震え出す始末。
目的地であるトンネルの前に着くと。「残る!」とシートベルトを掴んだまま動きません。
その口調から、本気で怖がっていることを察した友達とBくんは、一人で車に残る方が怖くないか? と思いながらも、二人だけでトンネル内を探索することにしました。
中に足を踏み入れてみると、夕日が暮れかかっていたこともあり雰囲気はばっちりで、奥の方は暗闇と言うに相応しい具合です。聞いていた通り壁にはお札が貼ってあったり、立ち入り禁止の脇道もありました。
めちゃくちゃ怖いなー、と口にしながらも、結局は何もなく、立入禁止をUターンしてのろのろと入口に戻ってきました。
助手席のAくんは呆然とした様子で待っていました。車内では感想もそこそこに、みんなで山道を下りました。Aくんは一言も話しません。
道は狭くて、車がやっとすれ違える幅しかありませんでした。運転をしていたBくんは突然、六十キロ以上で下り始めます。二人はあ然としてBくんを凝視しました。
Aくんは怯えながも。
「おい、ふざけてんのか?」
すぐそこにある角は、この速度じゃ絶対に曲がれません。友達はとっさにBくんの肩を掴みました。「お前何しとんねん!」
AくんはブレーキをBくんの足ごと思いっきり踏みました。キキーッと、崖の目の前で止まり、何とか転落せずに済みました。
「お前どうしたんや急に!」
友達が問い詰めると、Bくんは驚いた顔をしていました。
「ごめん。俺、トンネルを出てから今まで、全く記憶ない」
それから、車を麓の安全な場所に停めて、マジで怖かったなぁとしばらく笑い合いました。
コンコン、と窓がノックされます。見ると、若い男女のカップルが立っていました。
友達が窓を開けて、なんですか? と訊くと、男の方が顔を近付けてきて。
「ここ、マジでヤバい場所なんで。気を付けてくださいね。今すぐ帰った方がいいですよ」
そう言って注意をしてくる男の方も、俯く女の方も、肌の色が悪く黄土色でした。まるで徹夜明けのような顔で目も窪んでいます。
戸惑いながらも、分かりました、と返すと、カップルはそれじゃあ、と言って、手を繋いで山をゆっくりと登っていきました。
その後ろ姿を見ながら、不思議に思いました。もう二十時を過ぎていて、灯りのない山道は真っ暗です。こんな夜更けに、懐中電灯も持たずに登っていくなんて、一体何をしに行くんやろう、と。暗闇に消えていく二人を、ただ見送ることしかできませんでした。
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