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Exhibition information "BRIAN ENO AMBIENT KYOTO"
現在、京都中央信用金庫 旧厚生センターでは
音楽家/芸術家のブライアン・イーノによるBRIAN ENO AMBIENT KYOTO(ブライアン・イーノ・アンビエント・キョウト)が開催中。(会期6/3〜9/3)
絶え間なく変化する音と光が織りなす、見応え十分の大規模インスタレーションとなっている。
※下線部をタップすると詳細が表示されます。
ブライアンイーノは、リスナーの自由な聴き方に委ねられる*1「アンビエント・ミュージック」の発案者であり、Talking Heads(トーキング・ヘッズ)、U2(ユートゥー)などの多くのアーティストのプロデュースを手がけ、あのDavid Bowie(デヴィッド・ボウイ)ともコラボレーションを行ったイングランド出身の音楽家/芸術家である。
彼の経歴や詳細は語り尽くせないほどあるのだが、ここではこの展示の魅力や、私自身が感じたことを重点的にお伝えしていこうと思う。
*1アンビエント・ミュージック:比較的静かな音響の微細な変化を表現の基調とし、ある特定の場所や空間に雰囲気を添えることを指向した音楽。 「環境音楽(Environmental music)」とも呼ばれるが、「アンビエント・ミュージック」という場合はブライアン・イーノが1975年頃に提唱した音楽様式に特化されることが多い。(引用)
私は、長らく楽しみにしていたこの展示を見るために京都へと訪れた。初めに簡潔に感想を述べるならば、心底来てよかったと思った。彼の生み出す「音楽」と色彩豊かな「ヴィジュアルアート」によって成り立つインスタレーションは、非常に素晴らしかった。
まさに今の私自身の活動に双方関与するテーマでもあり、"音楽とアートの融合"という面では、いずれ自分が実現させたい内容でもある。「音楽」と「現代アート」、密接な関係がある2つのジャンルだが、いざそれぞれの特性を互いに反映させ合おうと試みると難しさを感じることもある。
最近では、クリスチャン・マークレーによる「Translating(トランスレーティング) [翻訳する]」でも、音楽と現代アートをテーマとした展示が東京都現代美術館で行われていた。クリスチャン・マークレーは、レコードやCD、コミックなどの幅広いファウンドメディアを再利用し、それらにノイズを織り交ぜながらヴィジュアルアートへと展開しており、"視覚的要素から音をイメージさせる"作品が多く見られた。細かくみると、イーノの展示とは異なったコンセプト、アプローチの展示会ではあったが、その展示会を見た私は、既存の完成された曲を使用し、新しい作品を生み出すことは非常に実験的で難しいことだと感じた。
しかし、ブライアン・イーノの展示では音楽がアートから乖離せず、「BGM」と化していない。どちらかが欠けていては完成されない作品として、音楽とアートが常にシンクロし、一体化しているのだ。この部分がこの展示の最大の魅力と言えるのではないだろうか。
本展の展示内容は、
3Fに【THE SHIP】/【Face to Face】
2Fに【Light Boxes】
1Fに【77 MILLION PAINTINGS】
の4つに分けられており、トイレや展示会場の廊下にはオーディオ作品の【The Lighthouse】の展示が設けられている。
【LOUNGE】(2F)は唯一飲食ができるスペースになっており、この展示会終了後イーノへと届けられるノートにメッセージを書くこともできる。【ENO SHOP】(1F)では、展示のオリジナルグッズや図録、アルバムが販売されている。
【THE SHIP】
こちらの展示では、2016年にリリースされたアルバム「The Ship」が流れている。
このアルバムは"タイタニック号の沈没"をコンセプトとして作られたものである。以前からタイタニック号の沈没に関心があったイーノは、自身のレーベルからタイタニック号の生存者の証言をもとに、かつての客船のバンドメンバーが演奏していた音楽の再現を試みた、Gavin Bryarsの「The Sinking of the Titanic」をリリースしている。
だが、「The Ship」は"タイタニック号の沈没"だけではなく"第一次世界大戦"についても関心が向けられ、両者を紐付ける行為によって作られたものである。実際に楽曲で歌われる言葉は、第一次世界大戦時に書かれた兵隊歌やタイタニック号沈没の報告書などのデータから、新たに変換・生成されたものをもとにしているという。
そんな「The Ship」が流れる部屋はとても暗く、部屋の中心にはいくつかのスツール、その周囲には至る所にスピーカーが設置されていた。視覚的要素が少ないこの展示では、暗く平静な空間の中で目を閉じ、音の鳴る方向を捉え一つ一つ丁寧に音を拾っていくと、次第に感覚が研ぎ澄まされ、次々と情景が浮かんでくる。
光さすようなポジティブな音の流れもあれば、時には不穏で、緊迫感が漂ってくる場面もある。一度コンセプトを無視して聴けば、浮遊感あるスペーシーな情景や、大草原に立っているかのような開放的な情景が浮かんできた。スピーカーによってメインで出る音が異なるため、聴く場所を変えるとまた違った印象が得られ、想像力が膨らんでいく。
アルバムは約1時間ほどあるのだが、彼が生み出すミスティックな音に心が浄化されていき、時間を忘れてしまうくらいイーノの世界に没入していった。何時間でもいたくなる空間だった。
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【Face to Face】
こちらは世界初公開作品となるイーノの作品"Face to Face"。
この作品は特殊なソフトウェアを使い、毎秒30人ずつ、36,000人以上の新しい顔を、実在する21人の人物の顔画像によって誕生させることができる。モーフィング技術により、ピクセル単位でゆっくりと顔の画像が変化していき、実在しない人々や中間的な人間が絶え間なく現れる。全ての瞬間を見逃すまいと、思わず目を凝らして見てしまう作品であった。
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被写体の国籍も肌色も違ければ、撮影した環境の違いによる、写真そのものの彩度や明度も異なるため、それによって表れる絶妙な色彩の変化を感じられるのもまた面白い点だ。
そして、作品の変化とシンクロしたサウンドが、より空間の奇妙さを際立たせている。
彼のインスタグラムではこちらの作品の映像が公開されているので是非。→【Face to Face】
【Light Boxes】
イーノの代表作でもある"Light Boxes"。大きさ、デザインが異なった、シンプルな3つのボックスが横並びになっていた。
LED技術を駆使したこちらの作品は、色彩豊かな光がゆっくりと流れるように変化していき、様々な色彩が組み合わせられていく。
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こちらの展示は、日本初公開となる「The Lighthouse」からのサウンドが使用されている。ネオンカラーの光をボックスの中で照らすことによって、色と光の柔らかさが演出されており、アート作品自体の緩やかなフェードがサウンドととてもマッチしている。非常にバランスの取れた作品だ。
ぼんやりと照らされ、ゆっくりと移り変わっていくドリーミーな光をボッーと見つめる時間は、まさに至福のひと時である。
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【77 MILLION PAINTINGS】
音と光が絶え間なく変化していくこちらの作品は、本展で一番大きな作品である。
本作は2006年にラフォーレミュージアム原宿で世界初公開され、その後アップデートを繰り返しながら世界各地で47回の展示を重ねてきた。
暗い部屋に並べられたソファに深く腰をかけ、流れる音楽と共に変化する作品を、映画をみるように鑑賞する。
「7700万」という数字はシステムが生み出すことのできるヴィジュアルの組み合わせを意味しており、4種に分けられた作品のパネルデザインがゆっくりと変化していく。コラージュアートにグラフィティ・アートのモチーフを含ませたようなデザインは、カラーリングも完璧であった。
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サイケデリックなデザインであるはずなのに、何故か落ち着いた印象を持つのは、まさしく絶妙な色彩と光の加減、流れるアンビエント・ミュージックらによるものである。洗練されたリラックス空間で、ひたすらにイーノの世界観に没頭できる展示だ。
【The Lighthouse】
この作品は、会場内の通路やトイレに設置されたスピーカーから流れるオーディオ作品である。
「The Lighthouse」は、2021年にブライアン・イーノが、ストリーミング・ラジオ・サービス「Sonos Radio HD」とコラボし開始された、新たなラジオ局である。イーノの50年以上にわたるキャリアから何百もの未発表曲や新曲を紹介する予定でスタートされた。
本展で流れたサウンドをこちらから一部聴くことができる。→ 【The Lighthouse】(タップする)
会場のトイレの空間をも作品としてしまうのは、流石としか言いようがない。
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そして最後に、入口に設けられていた本展でのイーノからのメッセージ。
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このメッセージにもある「自由」。作品の吸収の仕方や、何を想像しどう捉えるのかは"受け手の自由"といった点は、アンビエント・ミュージックとアートの一つの共通項でもあり、今後、次なる"音楽とアートの融合"の成功にあたるヒントとも言えるのではないだろうか。
本展は私自身にとって、非常に示唆に富んだ展示であり、とても有意義な時間であった。
是非とも皆さんにも、ブライアン・イーノが創造する素晴らしい世界を堪能していただきたい。会期9/3まで。
文・写真/木村星来
BRIAN ENO AMBIENT KYOTO(ブライアン・イーノ・アンビエント・キョウト) オフィシャルサイト