好きなバンドの新曲が楽しみじゃなくなったら青春の終わり 焼き肉が楽しみじゃなくなったら青春の終わり 迷わず大盛が頼めなくなったら青春の終わり
兵六はタコである。 正式にはもう少し長い名前があるらしいが、なにぶん長いので覚えていない。 タコのくせに六なんて変わってるのね、と、わたしが言うと、望んで呼ばれているわけではないのだからどうしようもないのだと、演技がかった表情をつくってみせる。 兵六は雨が苦手である。 生まれが日本海の、それも潮の濃い処だからとか、そういうわけではなく、単に水質が合わないらしい。 兵六は、雨が降り出す少し前になると、決まってわたしをデートに誘う。 サエコさん、緑がきれいな所へ行きませんか、
お祭り前夜。布団の中で。「ランジャタイって、知ってるかい?」 ランジャタイはボケの国崎とツッコミの伊藤による漫才コンビだ。 狂気じみた国崎のボケがなんだかわからないがクセになる芸風で、Wikipediaによると「イリュージョン漫才」とも呼ばれているらしい。 私とランジャタイとの出会いは3年前。 「欽ちゃんの仮装大賞」のネタを披露していたランジャタイを「にちようチャップリン」で偶然見かけた。 あまりの面白さに涙を流しながら笑い散らし、咄嗟に録画したスマホの動画を見返
インターチェンジに続く道路を挟んで、2人の浮浪者が向かい合うように腰を屈めている。わたしと同じ側にいる髭を蓄えた老人は筒を構え、横切る自動車めがけて何かを吹き飛ばした、ように見えた。 途端鋭い金属音が響く。 空を切って現れた小さな塊は、一瞬光を反射させ、コンクリートにバウンドしながらこちらへと転がってくる。 コインのようなそれは器用に転がってわたしのつま先前で倒れた。 10円玉硬貨だった。 近づいてくる足音に釣られて顔をあげると、髭を蓄えた老人がすぐそばまで来ていた。 ヒ