打ち上げの話。

「芝さん、飲み会では必ず「おみやげ」を持って帰らなくちゃダメですよ!」

ミュージシャンとの飲み会が苦手だ。
フリーのミュージシャンの飲み会というのは実質営業みたいなきらいがあるる。

「へー!ギタリスト!いいですねー!」
「あ、よかったら今度一緒にやりませんか?」

これはフリーランスであればあるほど、降って湧くような仕事なんてものは結局横のつながりがすべてだったりする。
こういった飲み会を主戦場とするミュージシャンもいたりするのだから、何がチャンスかわからない夢いっぱいなミュージシャン界隈。
こういった逞しいコミュ力が必要であったりする。

飲み会のお土産とは仕事のことだ。
フリーの美容師さんの言葉だ。

自分の飲み会での立ち回りはこうだ。
初対面であればその場での空気を察してなんとなく良い感じの話題にいくような方向に誘導する。
ガヤをやる。
話しにくそうな人がいたらその人にひたすら話かけて輪に入るような手助けをし

「それはダメです。無意味な優しさです。」

確かにそうだ。髪の毛にパーマ液を当てられながら思った。
これまでさまざまな飲み会を思い出だけ持ち帰って帰ることになるシーンが多数あった。
内気な我々を尻目に仕事が決まっていく様を、何度みてきてはなんとも言えない気持ちになった。
飲み会で無論その場でよくしたからといってその先々で仕事が来たことはない。

「言い方悪いですけど、毎回の飲み会には主人公っていうのがいるんです。話題の中心というやつですね。芝さんはそこに絡むこと全然できると思いますよ。その人だけでいいんです、絡むのは。優しいのはなんの意味もないんです。」

なんの意味もない。
知らなかった。

「僕、合コン大好きですけど、やっぱり必ずワンエピソードは持ち帰るっていうつもりで行きます。話題の中心には話しかけます。脇役は無視です。
たとえ損になっても話のネタになるじゃないですか。だから絶対に目的意識をもっていかなくちゃダメです。」

ここまでいくとすごい。
言い草はひどいものだが、それにしてもそこまで立ち回りを考えて行く飲み会ってなんなんだ。
もしかしたら飲み会を舐めていたのかもしれない。

一度も心の扉を開くことのできないまま帰路については「なんだったんだろう、あの時間は」「もう金輪際飲み会に行くのはよそう」と考える時間こそもしかしたら不毛な考え方だったのかもしれない。
襟を正さなくちゃいけないのかもしれない。

「中村さん、仮に合コンで2人から好意を寄せられていて、仮に付き合えるとしたらどっちと付き合いますか?」

「え?それってどんな人ですか?」

「どっちでもどんなタイプでもいいですよ。中村さんは何を基準に女性を選びますかね?」

しばし熟考したのちに中村さんは言った。

「確率の高い方にします。」

パーマはぐるぐるに仕上がり、仲良くしにいかなくちゃいけないのかと思っていた飲み会に少しだけ前向きな気持ちになった。

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