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朗読のための古典怪談

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江戸・明治時代の古典怪談を、朗読用に現代語訳して書いたテキストです。どうぞお楽しみ下さい。
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#江戸古典怪談

江戸古典怪談「エグチ殿」

江戸古典怪談「エグチ殿」

(現代・堂宇塔廟を破り報ひを受ける事)
  『片仮名本・因果物語 1692年』       

今の鳥取県中西部が、かつて伯州と呼ばれていた頃。

この地に、若狭から来た江口という一族がいた。
人々は、代々の当主を江口殿と呼んでいた。
その十六代目は、文禄の役にて討ち死にした。
文禄の役とは、秀吉の朝鮮出兵である。
江口の家は、十七代目になって滅んだ。
その十五代目を葬った塚が、泊という所にあった

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舅、息子の嫁に執心せしこと

舅、息子の嫁に執心せしこと

昔、むかし。
今の静岡が、遠江(とおとうみ)と呼ばれていたころ。
この国に、堀越何とかという人がいたが、この人は十五歳の時に男の子を一人もうけ、この子は十五歳になった時に嫁を迎え入れた。
つまり堀越は、三十歳で舅となったのである。

この嫁は、顔かたちも美しく、万事に於いて気の利く女であった。
が、舅の堀越は、この嫁と顔を合わせてもろくに口もきかず、嫁の顔を見ないようにうつむいてさえいた。

誰も

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