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朗読のための古典怪談

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江戸・明治時代の古典怪談を、朗読用に現代語訳して書いたテキストです。どうぞお楽しみ下さい。
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#江戸怪談

舅、息子の嫁に執心せしこと

舅、息子の嫁に執心せしこと

昔、むかし。
今の静岡が、遠江(とおとうみ)と呼ばれていたころ。
この国に、堀越何とかという人がいたが、この人は十五歳の時に男の子を一人もうけ、この子は十五歳になった時に嫁を迎え入れた。
つまり堀越は、三十歳で舅となったのである。

この嫁は、顔かたちも美しく、万事に於いて気の利く女であった。
が、舅の堀越は、この嫁と顔を合わせてもろくに口もきかず、嫁の顔を見ないようにうつむいてさえいた。

誰も

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艶書の執心、鬼となりしこと

艶書の執心、鬼となりしこと

伊賀の国の喰代(ほうじろ)という所には、六十も寺が建っていた。

一休禅師が修行でこの地を通った時、日が暮れたので宿を借りようとあちこちの寺を回ったが、人ひとりもいなかった。
一休は不思議に思い、残りの寺もすべて行ってみると、ある寺に美しい少年がひとり居た。
その寺の、召使いだった。

一休が一夜の宿を乞うと、少年は
「お易いことではございますが、この寺には夜な夜な化け物がやって来て、人をとり殺し

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