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【職人探訪vol.4】漆に魅了されて移住した若手職人・嶋田希望・宮沢結子・髙橋菜摘
こんにちは。漆琳堂8代目当主、内田徹です。
越前漆器を支える職人たちを訪ねる「職人探訪」。
第4回目は、漆琳堂若手職人の嶋田希望(しまだ・のぞみ)・宮沢結子(みやざわ・ゆいこ)・髙橋菜摘(たかはし・なつみ)です。
今回は、聞き役として村上なつかさんに入っていただきました。
村上さんは、2020年に昨年鯖江市に移住し、産業観光イベント「RENEW」の事務局長としても産地で活躍されています。
漆に魅了されて移住してきた職人たちに、このまちへ来た理由や漆器への思いを語ってもらいました。
色漆に惹かれて漆塗り職人になった移住者・嶋田希望さん
1人目は、漆琳堂の塗師として今年で6年目になる嶋田希望(しまだ・のぞみ)さん。今では、漆器の見た目を左右する上塗りまで担当しています。
ーー早速ですが、どういった経緯で河和田に移住したんですか?
京都の園部にある京都伝統工芸大学校に2年間通って、漆を学びました。卒業後はピンとくる就職先が見つからず、一度実家の東京に戻って暮らすことに。2年間ほど書店に勤めながら、趣味として家で漆のアクセサリーを製作していました。ある日、とあるセレクトショップで漆琳堂の色漆のお椀に出会ったんです。
ーー漆琳堂との出会いは偶然だったんですね。
すぐに漆琳堂に電話をかけて「働きたい」と伝えました。そのときの漆琳堂は特に求人をしてなかったため、とても驚かれたのを覚えています。そこからは面接などを経てトントン拍子に、就職、移住が決まりました。
ーーすごい行動力ですね。それほどまでに惹かれた漆琳堂の魅力って何だったんですか?
漆琳堂の売りは、やはり色使いだと思います。パキッとしている色というよりは、中間色のきれいな淡い色味が漆らしさとマッチしています。
ーー漆っぽくないのに漆らしくもある色合いですよね。漆琳堂で働き始めてからのことを教えてください。
職人になってびっくりしたことは、塗りやつくる数量です。学校ではずっと基礎をやるので、つくった作品は2年間でお椀2つと箱が1つ、卒業制作くらいでした。それが、漆琳堂に来たら、初日に300個の基礎の木固めをやることに。(木固めとは、木地に漆を染み込ませて強度を上げる工程です)学校に通っていたときと数がまったく違いました。
ーー「学校で学ぶ」と「仕事で塗る」は量が違うんですね。
漆琳堂では改めて基礎から学び直せました。量の多さ、スピードなど、気をつけることがまったく違います。例えば、100個単位で塗るから、1つ仕上げるのに1分かかるのと1分30秒かかるのとでは全体を塗り終える時間が変わります。決まった時間で何個塗れるのかを計算する。そんな職人としての基礎を教わりました。
ーー職人としての商品作りは働き始めてから学んだんですね。職人になって6年目ですが、上達したなと感じることはありますか?
そうですね。最初の頃は、塗りの厚さがわからなくて何度も何度も塗り直していました。でもスピードを上げるには手数が少ないほうがいい。塗りの手数が少なくなって、きれいに塗り上げられたときに上達したなと感じます。
ーー長年やっていると、スピードも質も上がっていくのが実感できるんですね。職人として、越前漆器の産地をどう捉えてますか?
ほかの漆器の産地のことは、そこまで詳しくないのですが、ここは漆器以外にも和紙や眼鏡など、おもしろい物がある産地です。だからこそ、漆器だけでなく他の産業とできることを広げていきたいと思ってます。今でも、和紙に漆を塗った商品などありますが、もっとラフに協力しあってもいいな、と。お互いの産業を刺激しあえたり、手を取り合っておもしろいものが新たに生まれるといいな、と思います。
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自身にとても合っているという漆塗りのお仕事。好きなことじゃないと何も続かない私でも、楽しく働き続けられてる職場だと胸を張って伝えてくれました。
地味な作業を大切にしている螺鈿好きの漆塗り職人・宮沢結子さん
2人目は、漆琳堂4年目の宮沢結子(みやざわ・ゆいこ)さん。もともと、ものづくりの仕事に就きたかったという彼女もまた、漆琳堂で塗師をしています。
ーーどういった経緯で、漆塗りの職人になったんですか?
大阪で生まれ育ち、大学を卒業後は6年間会社勤めでした。その後、嶋田さんと同じ京都伝統工芸大学校で漆を学びました。漆ってきれいだな、と思っていて。独特のツヤ感が好みなんです。印伝(いんでん)や鹿革に漆を塗るなど、漆の素材自体の可能性にも惹かれました。学校に行くのを理由にして仕事もやめて、あのときは思い切りましたね。
職人を育てる学校では、小刀の研ぎから始まりました。漆を塗る刷毛を整えるための小刀を自分でこしらえるんです。初めて漆を触ったときには、「やっと触れる」という気持ちでした。
ーーなるほど、最初は学校で学んでいたんですね。その後は?
その後は、ここ河和田地区に移住をしました。最初は漆器の木地をつくっている会社で働くことに。そこの社長がとてもいい人で、とりあえず来てみたらなんとかなった、という印象です。
漆琳堂へは直営店の1周年記念パーティにお邪魔しました。もともと漆の塗りをやりたかった私にとって、とても良い出会いでした。
ーー移住してすぐに漆琳堂で働き始めたわけではなかったんですね。今は、どんなお仕事をされているんですか?
塗りの準備、塗り自体もしていて、伝統的な赤や黒のお椀を塗っています。カラフルなものは難しいです。
ーー塗師として活動されているんですね。日々、心がけていることはありますか?
そうですね、地味な作業を大切にしてます。漆器は工程を重ねていって作るものなので、一度でも手を抜くと最後に影響が出てしまうんです。例えば、下塗りがしっかりできていないと上塗りがちゃんと光ってくれなかったり。地味だけど大切な仕事を丁寧にすることで、良い塗りに近づきます。商品づくりは結果がすべてだと思っている分、良いものができると嬉しいです。
ーーちゃんと光っている、綺麗に塗れるってどんな状態なんですか?
違和感がない状態です。元からこんな器だったように馴染んでいる状態。例えば、少し欠けていたり、ちょっとでも表面がへこんでいたりするとだめ。しかも、漆器は作業の積み重ねが大切。だから、下塗りがちゃんとできていないと完成したときに器が光ってくれません。
ーー漆を塗る上で、土台づくりがとても大切なんですね。これから、挑戦したいことはありますか?
はい、貝が好きなので螺鈿を極めようと思っています。貝の魅力は、光が当たると色んな色に輝くこと。それと、自分の仕事次第で貝の光り方が変わるのも、好きな理由です。一番輝かせたい場所に角度も考えて貼らないと、思ったとおりに光ってくれません。模様を作るにしても、光る向きを考えて貼らなければならない。それを考えて、何回も失敗して、試行錯誤をするのが好きです。
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漆が気に入って、仕事をやめてまで移住した宮沢さん。漆器を作る上での積み重ねの大切さや、漆でこれから挑戦したいことなどを語ってくれました。
「まずは目の前のことを大切に」漆塗り職人2年目・髙橋菜摘さん
最後は、漆琳堂に勤めて2年目の髙橋菜摘(たかはし・なつみ)さん。京都の芸大で漆を学んでいたそう。彼女もまた、漆に魅了された職人の一人です。
ーーもともと、大学で漆を学んできたとお聞きしました。漆との出会いはいつだったんですか?
高校生の時に地元の芸術大学のオープンキャンパスに行ったとき、螺鈿の施してある作品と出会って、綺麗だなと思ったのがきっかけです。もともと、絵を描いたりものを作ったりするのが好きで。それまでは、漆や工芸に触れたことがなかったんですが、一気に興味がわきました。
ーー出会いは高校生のときだったんですね。大学時代は、どんな形で漆に触れていたんですか?
今、職人としてやっていることとはまったく違って、アート寄りのものが中心でした。例えば、発泡スチロールやスタイロフォームを使って、ウツボやオオサンショウウオを作ったり。その時は、大きな作品を作りたかったですね。仏像とかに使われる乾漆技法(かんしつぎほう)というやり方で作っていました。乾漆技法っていうのは、麻布とかを貼り付けて層を作って、その上に漆を整えて塗る方法です。最初は螺鈿に興味を持ったけど、その後はいろんな漆の表現を知りました。
ーー学生時代に漆の深さを知ったんですね。今は、工房でどんなことをしているんですか?
今年2年目で、やっと上塗りを少しずつですが任せてもらえるようになりました。掃除や塗りの準備、上塗りの補助など、工房に関わるいろんなことをしています。
ーー髙橋さんは塗りにもしっかり関わっているんですね。実際、漆器を塗っていてどうですか?
集中して刷毛がすっと通せたときが気持ちいいです。内側を塗るときは刷毛を一周させるんですけど、左手を連動させて塗るので手首の動きがすごく大事です。手首をぐるっと動かしたときに、ぶれないでうまくきれいな円を描けたときは、楽しい。そんなときはきっと、集中しているんだと思います。
自覚はないんですが、塗っているときはすごく集中しているみたいで。先輩に「しゃべりかけても聞いてくれない時がある」と言われました。笑
ーーさすが、職人ですね!集中力は凄まじそうです。作業には、けっこう慣れてきましたか?
いえ、塗るときはすごく緊張します。漆は、乾いたときにどうなるかは塗っている時にはわかりません。気持ち良く塗っていると乾いたときに失敗してしまうから、常に緊張感を忘れないようにしてます。朝、工房に来て、掃除をして、という日々のルーティンが、今日も仕事だぞというスイッチを入れてくれます。
ーールーティン、大事なんですね。やりがいを感じるのは、どんなときですか?
漆琳堂には直営店があるので、そこで接客をしたときにお客様の反応を見ると嬉しくなります。修理に出して何度も使ってくれる方もいて。自分の作ったものを使ってくれる人がいると実感することができます。
ーー商品がお客様の手元に届く瞬間は、やりがいに繋がるんですね。これから目指していることはありますか?
とりあえず、先のことよりも目の前のことを一生懸命やっていきたいです。今はまだ、できないことがたくさんあります。まずは、上塗り。目の前のことをうまくなっていきたいです。
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入社してまだ2年目の髙橋さんは、工房で妹のような存在だそうです。漆琳堂では、食事を一緒に囲んで食べたり人と人との距離が近かったりと、チームワークの良さを魅力に感じていると教えてくれました。
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2021年3月15日(月)締切