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音楽とお笑い。その決定的に異なる難しさ。

はじめて音楽のライブに行った18の時から(Ken YokoyamaとGOOD 4 NOTHINGの対バンイベントだった@今はなき心斎橋クラブクアトロ)、大学時代、そしてレコード会社入社後と、それはもう数え切れない本数のライブを観てきた。同時にお笑いが大好きだったので、お笑いの舞台もたくさん拝見し、時には趣味のレベルで立たせて頂いたりもしながら、ライブ空間の空気を吸って生きてきた。

音楽もお笑いも、断言するに生が一番だ。

3Dで繰り広げられる迫力、臨場感。
密室に漂うお酒とたばこの匂い。隣の人の息遣い。
時には演者の汗や唾液すらも浴びてしまえそうな距離感。(やっぱりエンタメは三密で成り立っている…。)

自分を取り巻くすべてがライブを楽しむための演出であり、舞台装置であり、感情の蓋を開くスイッチになる(またこの体験を楽しめる世の中に戻ってほしい…)。
どちらもお客さんをリアルタイムで感化させる最高にスリリングな娯楽であることは共通するが、決定的に異なる点をいくつか感じているので、書き記しておきたい。

※あくまで素人の私見による一意見なので、鼻をほじりながら読むのに適したレベルの内容です。


①結果がその場で出る、お笑い

“生のパフォーマンス”であることのリアリティが、音楽とお笑いにおいてはまったく違った作用の仕方をする。ことお笑いに関しては、目の前のお客さんの笑い声がすべてである。演者の言動により、会場のお客さんが笑う。これが目的であり、目標であり、演者と来場者、双方が共に求める正しい結果となる。笑ったか、笑ってないか。この判定が、視覚的にも聴覚的にも明朗に全員に伝わるのだ。
要は、成功/失敗が完全にハッキリしているエンターテイメントなのである。この点では、ある種お笑いはスポーツに近いのかもしれない。毎秒、ボケる度にシビアにも即座に結果発表が行われる。

一方で、音楽ライブにおける反応の実状はなかなかに判断しづらい。お客さんが今にも涙が出そうなぐらい感動していようが、退屈に思っていようが、無心でぼーっと眺めていようが、傍から見てもなかなかわかりにくい(演者にはある程度伝わっているであろうが)。そもそも音楽は喜怒哀楽・どの感情に働きかけてもよい、ゴールに決まりのない自由競技なのである。目標は人それぞれだ。泣かせる歌を歌うアーティストもいれば、底抜けに高揚させる曲を作るアーティストもいる。演奏していて本人が楽しければそれでいい場合もある。
故に、音楽アーティストの反省会は、ゴールが多様であるが故、技術面でのミスに終始しがちである。お笑いの場合は至ってシンプルだ。ウケた(成功した)orスベった(失敗した)。その二元論を基に結論は既に出ている。

この刹那性がお笑いという演芸の大きな醍醐味でもあり、お笑いが残酷なまでに難解たる所以でもある


②十人十色のストライクゾーン

お笑いの方が、個々の趣味嗜好が細分化している、ように思う。同じ芸人さんのネタでも、大きくハマるネタとまったくピンとこないネタがあったりする。同じ漫才でも、爆笑する人もいれば眉をひそめる人もいる。
お笑いはバックボーンの知識があって理解できるボケであったり(マンガ、プロレス、スポーツなど)、いわゆる“あるある”に準拠する・各々の体験&感覚に基づくユーモアであったり、不愉快/不謹慎のジャッジがパーソナルに線引きされていたりと、人によって琴線の張り方が千差万別であるからだ。

その点、音楽の名曲は万人にとって名曲たりえる普遍性を持っている気がする。それは音楽におけるテーマ設定が、恋愛だったり友情だったり卒業だったり挫折だったり、より広い意味での”あるある”に伴っているケースが多いからかもしれない。音楽の方が間口が広く、よりマスに共感を得やすいエンターテイメントであると言えるだろう。


③コンテンツの賞味期限

お笑いネタの鮮度は短い。初見のネタのおもしろさを100とするならば、2回目は50、3回目にはもう10を切るくらいまで下がっていく体感がある。電通のクリエイティブディレクターである高崎卓馬さんが著書で、

「すべての人は笑う直前に、必ず驚いている。」

と残している通り、笑いは意外性とサプライズを前提に起きる感動と言える。

松本人志の一言がいつも我々の発想の5段階上から降りてくるから、相席食堂でノブの「ちょっと待てい!」の後のツッコミがいつも我々の想定になかったボキャブラリーから投擲されるから、我々はつい笑ってしまうというわけだ。しかしそんな予想外のボケも、2回目にはどうしても魅力が薄れてしまう。知っている情報には、驚きがないからである。何度観てもおもしろい名作漫才はたくさんあるが、1回目のテンションで爆笑させることはなかなか難しい。

かたや音楽の賞味期限は長く、聴けば聴くほど飽きるどころか味わいが増す曲が多い。大半のお客さんがコンサートでお気に入りの名曲を聴きに来ている。もちろん新曲の披露も嬉しいプレゼントではあるが、代表曲をやってくれないライブほど満足度の低い公演はないだろう。ストリーミングサービス全盛に差しかかり、ヒットチャートはより顕著に、ユーザーが好きな曲を繰り返し聴き続ける傾向を示すようになった。一度放たれた渾身の一曲が、芸能人生をより強く長く担保してくれる。
お笑い芸人からすると、この永続性は涙が出るほど羨ましいに違いない。


以上、まだまだ細かい部分はたくさんありそうだが、個人的に感じる3つの違いでした。
書いていて、こんなにライブが恋しくなることはない!
一刻も早く、ライブで泣いたり笑ったりできる世の中に戻りますように。。。


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