#5ショートショートらしきもの「言い間違い」
「あ。ごめん。起こしちゃった?」
彼女がベッドに腰掛けて服を着ながら言った。
最近残業続きで疲れていたからか、眠ってしまったようだ。
「いや。大丈夫。ユカリちゃんもう行くの?」
「は?ユカリって誰?私アカリなんだけど。」
一瞬何が起きたのか分からなかった。
彼女の普段の声とはちがう、明らかに不機嫌な声で眠気が覚める。
何か言葉を発しなければいけない。謝ったほうがいいのか?しらを切るか?
「え?ユカリ?聴き間違えじゃないの?」
「いいや。絶対にユカリちゃんって言った。ハッキリきこえたから。なにごまかそうとしてんの?ユカリって誰?答えろよ。」
謝った方が良かった。変にごまかそうとしたが為に彼女の怒りが増幅してしまった。
どうしてこんな事を言ってしまったんだろう。
というか、ユカリって誰だ?元カノの名前?いや、元カノなんて存在しない。
ゲームのキャラクター?そんな訳ない。
思い出した。先週、地元に帰った時に友達に誘われてノリで行った風俗の娘の名前だ。
「なに黙ってんだよ。ユカリって誰だって聞いてんだよ。」
「し、知らない。」
「知らねぇじゃねーよ。しらばっくれようとすんな。」
本当の事は言えない。他の女性の名前を呼んだだけでここまでキレてるのだから、本当の事を言ったら命は無いような気がする。
「本当だよ。寝ぼけてたから、たまたま言い間違えたんじゃないのかな。だから、ほ、本当に知らないよ。」
「あっそ。じゃあ携帯みして。」
「え?」
「なんにも無いなら携帯くらいみせれるでしょ。」
名前を呼び間違えただけでここまでしないといけないのか?
そもそもユカリは風俗の娘だから携帯を見られたとしても証拠はない。
だからといってどうして彼女に携帯を見せなくてはいけないのか。
「そこまでする必要ある?」
「は?逆ギレかよ。お前が変な女の名前呼んだからだろ。知らないっていうんなら証拠みせろって言ってんの。」
「名前間違えたことと、携帯みせることは別の問題だろ。」
「間違えたこと認めたな。」
「いやそういう意味じゃないって。」
「もういい。あんたがどういう人か分かったから。もう私のこと指名しないで。」
そう言いながらプレイ時間ピッタリに彼女はホテルの部屋を出て行った。
〜おわり〜