#9ショートショートらしきもの「最終面接」
このロビーにいる人間はどいつもこいつも自信のあるような顔つきをしている。
この面接に受かるのはたった一握りなのに。
まあ大手企業の最終面接まで来ているのだから、それだけでもかなり自信がつくのも分かる。
あそこのイスに座ってる男はすごいな。
受かってもないのに、同じ立場の就活生を何人も周りにつけて、仕事とは何なのか熱弁してやがる。
バイト以外で働いた事なんて無いくせに。
こういう待ち時間も面接に含まれるのは知らないのか?
あいつは落ちたな。
あそこの女はやけに派手だな。
肩より少し長い髪の毛をコレでもかってくらい巻いてある。
"あなたらしい服装"でという指定があるが、あれはやりすぎだろ。
甘ったるい香水のにおいもここまでしてくるし、何より化粧が濃すぎて威圧感がある。
あいつも落ちた。
あっちの女は確実に浮いてる。
全身蛍光色で明らかに登山前の格好だな。
こいつも"あなたらしい服装"を勘違いしている。
大学時代は山岳部でたくさんの山を登り、つらいこともたくさんありましたが、諦めない事の大切さを学びました。的な事でも言うのだろう。
どうせ数える程しか登ってないくせに。
年中着ているならここに着てくるのも分かるが、そうじゃないだろう。そもそもそんなに山が好きなら登山家にでもなればいい。
よく見たら蛍光色も新品に近いな。
こいつも落ちた。
あの男、どうやったらそこまで太れるんだ?
あいつの横の観葉植物が俺と同じくらい。
それよりあのデブは低いから、170cmくらいか。
みたところ100キロ。いや、120キロはあるんじゃないか。
かわいそうに。この会社は知的でスタイリッシュな会社なのに受かるわけないだろ。
すれ違う社員、面接官、全員スリムでオシャレな人達しかいない。
あのデブは誰かのプロフィールと間違えて最終面接まで残ってしまったんだろう。
間違えられた方は気の毒に。結果はもう出てる。
あいつも落ちた。
あっちの男は緊張しすぎだ。
さっきから何度もトイレに行っている。
見る見るうちに顔色も悪くなってきたな。
ここで吐いたりなんかすんなよ。めんどくさいんだから。どうせ落ちるんだから早く帰って寝てろ。
こいつはもちろん落ちた。
「おい。お前さっきっからなにキョロキョロしてんだ。しっかり手動かして掃除しろ。」
「すみません。」
「最近こういうこと多いよな。バイト君さ、ウチも余裕ないんだよ。ちゃんと働かないなら辞めてもらってもいいんだよ?」
「いや。そ、それは。す、す、すみません。」
「困るだろ。30過ぎて今までバイトしかしてないんだから、他に取ってくれるとこも少ないだろうし。ちゃんとやれよ。」
〜おわり〜
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