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#7ショートショートらしきもの「ウソ」

朝起きると彼女の体調が悪いのに気づいた。朝ごはんを作ろうと台所に向かう彼女の足元が一瞬ふらついたのだ。ここ最近体調を崩しやすい彼女であったが、足元がフラついたのは初めてだったので心配になった。


「大丈夫?」


「大丈夫だよ。」


口角を少しだけあげた笑顔で彼女は言った。


「体調悪いでしょ。今日は絶対に仕事休みなさい。この間も休んでって言ったのに隠れて仕事行ってたでしょ。」


「あれ。バレてた?今日は大丈夫だって。そんなにひどくないし。でもなんで分かったの?」


「付き合って長いんだし、同棲ももうすぐ3年だろ。それくらいすぐ分かるよ。とにかく今日は休みね。午前中は何もしないで寝てること。午後になっても辛かったら連絡して。病院連れて行くから。」


「はーい。ありがとね。」


彼女のウソはすぐに分かる。ウソをつくときに彼女は口角を少しだけあげた笑顔をつくる。


「大丈夫だよ。」の言い方がまさにそうだった。彼女が本当に笑顔になる時は、口角だけでなく、顔全体ををクシャッとして笑う。
そこが俺が彼女を好きになったきっかけであるから特に分かる。


そもそも大丈夫な人間は「大丈夫?」と言われて「大丈夫だよ。」とは答えないし。



「行ってきます。」


ベッドで寝ている彼女を起こさないように静かに玄関のドアを閉めて会社へ向かった。


実は今日は彼女へ結婚のプロポーズをするつもりだった。朝ごはんを2人で食べている時に「結婚しようか。」と言って4ヶ月前に完成した婚約指輪を渡そうとしていた。


プロポーズにしては質素だしムードも何もないが、前に2人で観た映画で、主人公が寝ている彼女を朝起こして「結婚しよう。」と指輪を渡すシーンがあった。


それを観て彼女が「プロポーズってこういう普通の日常でされたいな。フラッシュモブとか派手なのは絶対に嫌。高級レストランとかもないかな。」とクシャッとした笑顔で言っていた。


自分はフラッシュモブは無いにしても、プロポーズは高級なレストランなどでするものだし、その方が喜ばれると思っていたので少し驚いた。


元々結婚を考えていたので、この言葉を聞いてからコレだと思いすぐに指輪を作ったが、それから仕事が忙しくなった彼女は体調を崩すようになり、タイミングが合わなくなってしまった。


さすがに日常だとしても体調が悪いときにプロポーズはできない。


だからといっていつまでも婚約指輪をポケットに忍ばせる訳にはいかない。今日帰って、彼女の体調が良くなっていたら渡そう。


「ただいま。」


玄関のドアを開けるとカレーのいい匂いがした。


「おかえり。早かったね。」


鍋をクルクルと混ぜながら彼女が言った。


「もう大丈夫なの?」


「大丈夫。寝不足だったみたい。少し寝たらすっごく元気になった。」


火を止めながらクシャッとした笑顔で言った。


「よかった。元気になって。」


「心配かけてごめんね。今日嬉しかったんだ。私が体調悪いの気づいてくれて。私のことよく見てくれてるんだなぁって。ちゃんと私のことすきなんだなぁって。」


「一緒に住んでるんだし彼氏なんだから当たり前だよ。」


ポケットに手を入れてこっそり確認する。


「私のこと好き?」


「そりゃね。」


「恥ずかしがらないで、ちゃんと言ってよ。」


「す、好きだよ。」


「私も好きだよ。」


彼女はそう言いながら口角を少しだけ上げて僕に抱きついてきた。



〜つづく?〜

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