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#1ショートショートらしきもの「舞台」
僕が所属する劇団かすみ草にはここ最近変な噂がある。というか劇団がよく使う小劇場の噂なのだが少し奇妙である。
人が集まる場所にはよくある話だが、その小劇場にも幽霊が出るらしいのだ。
ただその幽霊をみた劇団員はもれなく皆出世する。
出世と言っても、そもそもが小さい劇団なので朝ドラの主役になったり、売れっ子俳優になったり、大金持ちになるって訳ではない。
かすみ草が次にやる公演の主演になったり、別の劇団の公演にゲストで呼ばれたりするのだ。
小さい劇団の主演でも、本気で役者をやっている人達の集まりなのでそれはとても嬉しく、夢への一歩である。
5年目にもなれば、一度は主演や2番手の役を演じることもあるけれど僕は一度もない。
3年目までは良かった。演出家に稽古で褒められることも増え、着々と役の重要度もあがっていた。そこから2年。自分でも分かるくらい成長がない。
というか衰退している。役も貰えなくなり、毎日変わりもしない衣装の数を数えている。 この現状もあの噂の幽霊さえみれればどうにかなるんじゃないかと思っていた。
そんな事を思っていたら、いつしか小劇場に寄ってから稽古場に行くのが日課になっていた。
今日も昨日と同じ数の衣装を数えに稽古場に行くと、同期のカズエが泣いていた。
「どうした?なんかあった?」
鼻をすすりながら俯いているだけで反応がない。
「カズエ!どうしたの!」
ドタドタと足音を鳴らしながらアケミが駆け寄ってきた。
息を落ち着かせながらカズエが言った。
「見たの。」
「見たのって、なにを?」
「劇場の幽霊。」
「幽霊って、見ると出世する?」
「そう、、だと思う。」
「良かったじゃん!いいな私も見たい!どこでみたの?え。てかなんで泣いてるの?嬉し泣き?」
「ううん。ちょっときて。」
カズエがアケミの腕を引っ張りながら、稽古場を出てすぐの小劇場へ向かった。僕も幽霊が見れるチャンスだと思い付いていく。
劇場に入り、舞台袖でカズエが立ち止まる。
「ここ?」
「ケンジ君だったの。」
「え?」
「みんなが見てたのはケンジ君だったの。」
「それって2年前に主演をやるはずだった?」
「うん。役が発表される日に交通事故で亡くなっちゃったケンジ君。」
「うそ、、、」
「みんな影だけみたとか、通り過ぎるとこをみたとか言ってたから分からなかったと思うんだけど。私、はっきり見たの。ケンジ君だった。」
そう言いながらカズエが指差した舞台袖の錆びたパイプ椅子は、必ず僕が座る僕だけの特等席だった。
「そうか。僕はもう主演になれてたんだ。」
〜おわり〜
松竹芸能でお笑い芸人やってるものです。シテントルの山賀です。
普段コントをやっていて、ネタ作りとかで思いついた事を適当に書いてます。
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