真夜中の戦士
母を起こすことから始まる
いつもの朝
母が寝ている部屋の襖を開けると
目に入ってきた母のベッドの景色が
いつもと何か違っている
一体何が起こったのか?
すぐには理解できない光景が目に飛び込んできて
一瞬とまどったが
しかし
ほんの数秒で状況を把握して
その途端
私は慌ててベッドに駆け寄った
母は、介護用ベッドの
転倒予防の鉄柵の間の狭い隙間から
頭をだらんと下に垂らし
その垂れた頭の下の床は
少量の吐しゃ物で汚れていた
そして目を閉じた母の顔は青ざめ
頬を触ると冷たかったので
これはもうダメかと思いながら
恐る恐る声をかけてみると
意外にも苦しそうではなく
普段通りの声が返ってきたのには拍子抜けしたが
衝撃的な姿の割に
母のダメージは
それほどでもない様子がわかって
やっと安心することができた
そして
ベッドの外に垂れたままの母の頭を
ベッドの枕の上にゆっくり戻して
少し汚れた口の周りを綺麗に拭いて
どこか痛いところはないかと訊ねても
首を左右にふって答えたので
注意を払いながら
いつもの朝と同じように
食卓の椅子に座らせて
様子をみていたが
特に不調を訴えることもなく
顔色も段々戻ってきて
落ち着いていたので
食事を食べさせることにした
嘔吐の跡があったので
消化のよさそうなものを
いつもより慎重に少なめに食べさせ
引き続き様子をみていたが
その後もずっと具合が悪くなることはなかった
それにしても
ベッドの鉄柵の隙間は狭く
生まれたての赤ちゃんでも
頭を出せるとは思えないほどだが
母は夜中に一人
吐き気の苦しさの中
寝具を汚してはいけないと
思ったのかどうかは分からないが
鉄柵の隙間と
必死に戦って
力尽きたままの姿だったかもしれない