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小説の書きかた入門書の入門
編集という仕事柄、いわゆる「文章読本」「小説の書きかた」の類の実用書を読むことがある。
読んだからといって一朝一夕に傑作が書けるようになるわけではないし、枠にとらわれない斬新な小説をこそ版元も――そしてなにより読者も求めているわけだが、とはいえ体系化された方法論を学ぶことは、小説を書こうと志す者にとって有益であるのは間違いない。たとえ既に頭で理解している知識、実際に身につけている技能であっても、改めて復習し直す機会となるであろうし、看過していた新たな発見があるかもしれない。先達はあらまほしきことなり。故きを温ねて新しきを知る。剣道や茶道に「守破離」という教えがあるように、先人の教えは守り、破り、そして離れていくためにあるのだ。遥か高みの到達点から偉大な諸先輩方が残してくれた知見を、利用しない手はない。
この記事では、私が実際に読んだことのある「小説ハウツー本」を紹介していきたいと思う。ずいぶん昔に読んだ本も含まれるし、手許に見当たらず記憶に頼っている部分が多々あるが、ご容赦願いたい。
まずは、編集者としての私が最も影響を受けた、古典的なストーリーライティングの方法論から。
いきなり国外の本になるが、ニール・D・ヒックス著『ハリウッド脚本術』シリーズを挙げたい。とりあえず1冊目の「プロになるためのワークショップ101」だけでも読んでおけば間違いないだろう。
有料note「小説の書きかた私論」でも紹介したが、この翻訳書の発売が2001年。いまとなってはだいぶ古い本になるが、手垢のついた――それだけに色褪せない、世界に通用するハリウッド流の脚本術の方法論が、まるで理系の技術書のように仔細に書かれている。
私自身この本から多くを学んだし、手垢のつきすぎた手法=基礎の基礎であるといえる。所詮は金太郎飴のようなブロックバスターの脚本術――などとバカにするだけでは、少なくとも進歩はないだろう。
ハリウッド式脚本術によるストーリー構成の大枠は単純明快である。
(1)些細で身近な課題=小さな事件Aが立ち上がる
(2)主人公(たち)がそれを克服しようとする
(3)その過程で主人公(たち)と目的を一にした/利害が一致した、別の重大で縁遠かったはずの事件=大きな事件Bが立ち現われる
(4)大きな事件Bに携わることになり、困難の果てにこれを達する
(5)同時に、小さな事件Aも解決に至る
これぞエンタメの基礎の基礎といえよう。金太郎飴のようだとの誹りを受けようとも、作品ごとの個性は大同小異であり、本質だけを切り出していくと、エンタメ作品はつまるところ、この構図の拡大再生産でしかない。
小さな事件から大きな事件へ――という物語構造については、小説執筆のノウハウとは少し逸れるかもしれないが、20世紀と21世紀をつなぐ物語論の金字塔として、大塚英志著『物語消費論』が外せないだろう。
ただし、大きな物語ばかりが「小説」ではない。丁寧に、リアルに、地に足のついた生活を描くのもまた小説である。
いわゆる純文学、リアリズム小説を志向する場合、保坂和志著『書きあぐねている人のための小説入門』が肌に合うかもしれない。
著者が、読者の物語への没入をどのように手助けしてあげようかと、つねに透徹した目で気を配っているさまが窺える。決して独りよがりにならず、読者の目線に立った小説への向き合いかたは参考になるだろう。
再びエンタメの方法論に戻る。
『ハリウッド脚本術』から一歩進んで、より現代的にわかりやすく洗練された実用書としては、円山夢久著『「物語」のつくり方入門 7つのレッスン』に始まる3冊のシリーズがおすすめだ。
とにかく実用的。トレーニングすべき要素が過不足なく盛り込まれているので、段階を踏んでプロットの構築法を身につけていくことができる。物語の「筋トレ本」のような印象だ。
ちなみに私が中学校に上がったばかりの頃、生まれて初めて読んだライトノベルは、この著者のデビュー作『リングテイル 勝ち戦の君』(電撃文庫)だったりする。忘れもしない、隠れた名作である。以来、著者の物語観には多大な影響を受けている。
ショートショートを書きたいならば、田丸雅智著『たった40分で誰でも必ず小説が書ける 超ショートショート講座』が役に立つ。
この本については以前noteで紹介したので、下記を参照されたい。
このほど発売されたばかりの三浦しをん著『マナーはいらない 小説の書きかた講座』も面白かったので、ぜひおすすめしたい。
「講座」と題されてはいるものの、軽快なエッセイの文体で、基礎から応用まで豊富な知見を学ぶことができる。
本書の特徴は、比喩が巧みなこと。タイトルからして、各講座を「皿」に喩えて「コース仕立て」で提供するという体裁になっているのだが、とにかく比喩が巧みだ。小説書きにとっては知っていて当然の、基礎中の基礎の話でも、教科書のような通り一遍の解説で読むとつまらないが、著者一流の比喩で見立ててくれるので面白いし、理解が深まる。とくに7皿目・8皿目の「1行アキについて」、16皿目「情報提示のタイミングについて」、19皿目「書く際の姿勢について」などは「よくぞ書いてくれました!」と膝を打つ内容だった。
小説執筆に行き詰まったときに、優れたモチベーターにもなりえる1冊だろうと思う。
※最後に、偉大な先輩たちの末席を汚すようで恐縮だが、自著noteもしれっと宣伝しておく。
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