大黒屋プロローグ
2016年、残すところ10日ほどに迫った師走に、
仕立屋はだだっ広い古民家にいた。
周りは星以外何も見えない。ここはデコ屋敷大黒屋。
居間のありとあらゆる所からダルマがこちらを睨んでいる。
この日から大黒屋二十一代目のもと、弟子入りが始まった。
張って子が生まれる=張子
急ですが、みなさんだるまってどうやって作られているか知っていますか?
というか、だるまって手で持ったことありますか?
今ではなかなか自宅にだるま置いているお家って多くないと思うので、
なじみが薄くなっているかもしれません。
信じられないくらい軽いんです。
ダルマは張子(はりこ)という伝統工芸です。
ダルマの形をした一つの木型に和紙を水のりでぺたぺたぺたぺた・・・
張った和紙を乾燥させて、中から木型をモモタロウ式にパカッ!と割って
取り出して、割れた部分をまた和紙で貼り付けて、ニカワと貝殻を砕いた胡粉という白い塗料を塗りたくり、職人が絵付けをしてダルマが完成します。
ひとつの木型が親だとして、ペタペタ張っていった和紙が子ども。
同じ型から次々に同じ子が生まれるようだから張子というんだそうです。
ちなみにデコ屋敷の”デコ”はオデコじゃありません。木偶(デク)という木の人形という言葉がなまってデコになったそうな・・・。
とにかく、今回仕立屋と職人はこのデコ屋敷大黒屋二十一代目(!)橋本彰一さんとコラボすることになりました。
四ヶ月間の弟子入り生活のはじまりはじまり。
ダルマだらけの里 デコ屋敷
「こんな里がマジでまだこの時代にあんのか〜。」
郡山から阿武隈川に沿ってどんどん山奥に入っていく。
20分ほど走ると、立派な古民家が並ぶコンパクトな集落についた。
「ダッタンソフトってなに・・・?」産地モノの看板を横目に
集落の入り口に門を構える、デコ屋敷本家大黒屋の戸をたたく。
「ごめんくださ〜〜〜い!」
大黒屋のスライドドアをくぐると、お母さんたちが満面の笑みで
迎えてくれた。みんな小柄で愛嬌が溢れてて、なんかかわいらしい。
お店はダルマ・天狗・トラなどの色鮮やかな人形が
ギュウギュウに並んでいる。千と千尋みたいな世界だ。
他の年配夫婦のお客さんもチラホラいる。
その中に座って絵付けをしているお兄さんがいる・・・。
二十一代目、橋本彰一さんだった。
黒縁メガネに、黒いパーカー。黒いジーンズに黒い革靴。
「あれ、職人さんって、もっとこう、作務衣とか着て、
頭に手ぬぐい巻いていて、スルドイ横目でこちらを睨むような・・・」
いらっしゃい、とナイスな八重歯を見せて、作業場から迎えてくれた。
イメージしていた人物像と180度違かった。
彰一さんに連れられ、工房の中を案内してもらって驚いた。
半袖でいられるほどあったかい。てかあっつい!
これまで知らなかったが、ダルマは紙を張り重ねて出来ている。
つまり、水のりで張った紙を乾かさないといけないので、
冬でも夏でも室内でストーブを煌々と焚いているのだ。
周りにはまだ色が塗られていないダルマが火に向かって
たくさん座っている。
山奥にポッカリ現われた集落、色とりどりの人形、明るいお母さんたち、
そして火にくべられるたくさんの白いダルマ・・・
ここは現実世界なのでしょうか?
それが僕たちのデコ屋敷の第一印象だった。
つづく
(全6話/ 1)
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