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#500字小説『消失』/消えた鍵【#シロクマ文芸部】

小牧幸助(シロクマ文芸部・部長)さんの
「消えた鍵」から始まる小説・詩歌を書く企画に参加します

※詳細は本文後に記載

#500字小説 2分程度で読了可能超短編小説ですので、
ぜひご一読ください。

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『消失』


 消えた鍵穴からは、何も見えない。
当たり前だ。鍵穴自体が「無い」のだから。
鍵穴があった時分も、覗いたところで、真っ暗闇が広がっているだけだったけど。
それでも、目を凝らせば、なんとか一筋の光くらいは……いつか見えるんじゃないかと希望が持てた。
しかし、今の僕は、絶望という名の閉ざされたドアの前に立ちすくむしかない。

「では、私が鍵穴を作って差し上げましょう」
 千枚通しを手に現れた、いかにもひ弱そうな男。
「技能も情熱もない君にこじ開けることは無理だろう」
 男はかぶりを振って、自信満々に答えた。
「私は、必ずあなたの力になってみせます」
 どこからか電気ドリルを持ってきたが、彼には扱いきれなくて断念した……。

「先生。スランプに陥った後書こうとする気力さえ消失し、かといって編集者のアドバイスも聞く耳持たない現状を……そんな風に描写できるのなら、もうスランプは脱出してますって。原稿くださいよ」

 ひ弱な編集者が、スケジュールが書かれた手帳を片手に催促してきた。
「ほらほら、鍵穴はここにありますって」
 粗雑に私が愛用しているノートPCを開いた。

 あの頃のワクワクしながら鍵を開けるような感覚は、職業作家になった時点で消えていた。


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#シロクマ文芸部 /7/13発表・7/16〆切のお題
「消えた鍵」から始まる超短編小説(500字小説)でした。

文字数:500字(空白・改行を除く文字数)

◆小牧幸助(シロクマ文芸部・部長)さんの企画に
 参加させていただきました!
 詳細は、下の記事をご覧ください。↓


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◆同じく「消えた鍵」から始まる超短編小説(1000字小説)です。
 4分程度で読了可能だと思いますので、ぜひご一読ください。↓


◆前回の「私の日」から始まる超短編小説も、ぜひご一読ください。↓
 800字小説は3分程度で、140字小説は30秒程度で読了可能だと思います。


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