#7【やーい、お前ンチ、ごーみやーしき!】
うちのおばあちゃんちは、汚い。
汚い、というよりは
ものを捨てられない人なので、
とてつもない量のものが出て来る。
引っ越し作業は困難が予想された。
そこそこ広い家から、
6畳の部屋に引っ越す。
それを考えただけで、
多分荷物がもう入らない。
しかも、普通の引っ越しではないのだ。
死ぬ準備をするための、引っ越しだ。
つまり、物はほとんど捨てるしかない。
しかも、何度も言うが、
捨てられない人だ。
引っ越しというよりは、遺品整理だ。
思い出もあるだろう。
一応、覚悟はしたのだ。
祖母の荷物が、6畳に入りきらずに
私や妹の部屋に詰め込まれることを。
その期待を裏切り、
祖母は大きめの段ボール4つに収まる量に
“遺品整理”をし、
小さなバックに収まる手荷物を持ち、
身軽な状態で我が家に来た。
3月も中盤だと言うのに、春とは名ばかりで、
陽が当たる場所でも凍えるような寒さだった。
「短い間ですが、お世話になります。」
玄関を入ってすぐに、父親に深々と頭を下げた。
そういうところは、
身内だろうが関係なく
しっかり仁義を切る祖母であった。
こうして、祖母は
死ぬために、慣れ親しんだ土地を離れ、
プライドを捨て、世話をされるために、
我が家にやって来た。
私に、昔の話をするために。
私に、祖母が生きた証を伝えるために。
この頃は、まだ浮かれていた。
寂しさはあったが、まだ他人事だった。
祖母の体の調子も、予想より悪くはなかった。
だから、みんな、浮かれていた。