#13【自分の足で歩くこと】

肌寒い日が続いていたが、
春の気配は訪れていた。
 
 
斜向かいの家の桜が綺麗に咲いたのだ。
 
 
家のリビングから見れるその桜は
地元では有名な桜の名所の
開花時期、満開時期とほぼ同じで
我が家ではそこの桜を目安に
花見に行くのが恒例だった。
 
 
祖母は、もう
我が家の1階でしか生活ができなくなっており
トイレとリビングの往復ですら
疲れ切った顔をして戻ってくるほどだった。
 
 
癌患者は、よく眠るという。
 
 
ガンが、その人の身体の
体力を全て持って行ってしまうらしい。
 
 
祖母もそんな感じで、
少し前まで余裕でできていたことが、
体力の衰えが原因で
できなくなっていった。 
 
 
そして、朝寝、昼寝、夜寝と、
寝る時間が増えていった。
 
 
ただ、この時点では、
やたらと体力がなくて
人の3倍ぐらい眠るだけで
起きてる間はずーっっっと口を動かし
家族の誰かと会話しまくっていたので
あまり深刻さを感じていなかった。
 
 
声だけは、いつもの元気な祖母だったから。
 
 
「あ、桜咲いてるんやー」
 
 
リビングから桜を発見した祖母が言う。
 
 
「そうそう、ここのお家の桜と
〇〇公園(桜の名所)の桜と、
開花時期も満開時期もかぶるねん」
 
 
そこで、ハッとした母が
「あかん!いこ!笑
おばあちゃんどんだけ頑張っても
来年の桜の時期死んでるやん!
今日元気?歩ける?」
 
 
いやいや、自分の母親かもしれんけど
面と向かって死亡宣告しないでよ笑
  
 
って心の中で突っ込んだのですが、祖母は
 
 
「いやー、ほんまに死んでるからなあ!
いけるで!行こう!」
 
 
さすが親子笑
 
 
と言うことで、そのまま桜を見に。
時間は夜の20時を回っていたが
夜桜のライトアップを
している時期だったので
駐車場も使えたため、
桜が綺麗なスポットのすぐ近くまで
車で乗り入れることができた。
 
 
折りたたみのBBQ用チェアーを
弟が担ぎ、
私と母で祖母を支えながら
ゆっっくりと夜桜を見て回った。
 
 
祖母のたっての希望、と
あまりにもハナが連れてけと
うるさかったので、
妹にハナのリードを任せ、
祖母の真後ろをぴったりと
寄り添って歩いていた。
 
 
たわいもない会話をしながら
酒盛りをしてるおっちゃんを横目に
桜と、愛犬と、祖母。
 
 
たくさんの写真を撮り、
家に帰った。
 
 
みんな、めちゃくちゃいい笑顔だった。
 
 
もう、来年、おばあちゃんはいない。
奇跡が起こって欲しいと思うけど
そんな簡単に起こらないから奇跡なのは
よくわかってるつもりだ。
 
 
とっても寂しいけど、
でも、家族のみんなも、私も
少しずつ、その現実に
折り合いがついてきていて
前向きに捉えていけるようになった。
 
 
だから、今ほとんど
悔いがないんだと思う。

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