#28【つかの間の平和】
それからしばらくの間は
祖母の体調が悪化することもなく
平和な日々が続いた。
田舎から、私の大叔母に当たる
人が遊びにきたりだとか、
祖母の病気は、じわじわと
祖母を蝕んではいたが、
大きく変化をもたらすほどではなく
時が止まったかのように見えた。
ただ、1つ。
大きな問題は残っていた。
耐えきれないような
痛みが襲うようになっていた。
多少の痛みには
耐えたりだとか
モルヒネの力を借りて
どうにかしていたのだが、
それでも、無理なくらいな
強い痛みを感じるようになっていた。
しかも、辛いのが
老廃物が出ない、痛さなのだ。
つまり、うちの祖母のガンは
胃に始まり、腸まで行き、
そのほか消化器官という消化器官を
全て飲み込む形で
進行して行っていた。
そうなると、
食べたり、生きているというだけで
ある程度消化されるものがあるわけで
でも、機能していないため
溜まる一方なのだ。
体内に毒素が溜まっている、
とも言い換えられるため、
体はそれを追い出そうとするのだが
力むような体力もなく、
また、機能していないため
追い出したいのに追い出せないという
状況に、痛みが出てきていた。
「どうしようー子供生まれるー」
と、おどけてみてはいたが
脂汗が滲み、苦しそうな顔から
相当な痛みがきていることは
私たちにも容易に想像できた。
「いや、わかるで、陣痛って
すごい便秘ととんでもない生理が
一気にきたような痛みやもんな」
と、母は祖母に同意していたが
そんな冗談は、その二人でしか
通用しない。
笑っていいのか真面目な顔を
したほうがいいのかが
わからなかった。
そんな日常だった。
「もう、ダメですわ。
入院しましょう。」
ある日の診察で
いつものお医者さんが
真剣な顔で、こう言った。
「もう、家でどうにかできる
レベルは、とっくに過ぎた。
ほんま、みんなよう頑張った。
あとはプロに任せたほうがいい。」
すでに家で扱える、
最大レベルのモルヒネを入れていた。
もう、どうにも逃げようがなかった。
ホスピスへの入院が決まった。