#17【衝撃の事実】

モルヒネの治療が始まって
ちょっと、薬代が高くなった。
 
 
その頃から、
母親が目に見えてイラついていた。
 
 
ある日、祖母が寝た後の深夜の時間、
母親とリビングで2人きりになった。
 
 
「ごめんな、ちなつ、
バイトもめっちゃ頑張って
学祭も続けてるやん。
しんどくない?」
  
大概、こういう質問を母がする場合、
母が、疲れているし母がしんどいのだ。 

「うん、私は好きでしてるし、
しんどくなったらバイト削ればいいし」
 
 
母が疲れている、何か悩んでいることが
この質問ではっきりしたので、
私は心配をかけまいと
彼氏と別れたことも伏せた。
 
 
「なんかあった?」
 
 
私は話術がないので
直球でしか会話ができない。
 
 
ど真ん中ストレートを投げてみた。
 
 
母親も、溜め込むタイプだ。
甘えることや、頼ることが苦手で、
父である旦那に対しても意地を張る。
 
 
深夜だということや、
かなりメンタルにきていたんだろう、
抑えてたものが堰を切ったように
まるで言葉の洪水のように
母が話してくれた。
 
 
祖母は年金暮らしだったし、
それを知っていたしその年金を
携帯代以外は家に入れる、という
約束だったが、その元々の年金が
たった6万円程度だったこと。
 
 
それに対し現時点で祖母に
かかっている医療費は
その2倍程度だということ
 
 
今後ホスピスに入院することを
考えたら、家計自体も
完全に赤字だということ
 
 
祖母に貯金があるのか、と
聞いたところ、むしろ借金まみれだったこと。
 
 
このままだと、入院もさせられない、
葬式も出せないかもしれない。
  
 
お父さんには申し訳なくて
何も言えなくて辛いということ。
 
 
いや、ハタチの子供に聞かせる内容ではない。
 
 
30分ほど、母親の口から
言葉が止まらなかったし、
かなり興奮していたので
途中で暖かいジャスミンティを
飲みながら話を聞いていて
借金のところでむせかえってしまった。
 
 
「え、そうなん!!
知らんやんそんなん!」
 
「そう、お母さんも知らんかった。
なんでも、ちょっと前にしてた
事業の借金と、生活苦からの借金らしい。
友達から借りた分とか、
カードの支払い止まってる分とか
事業のためにおばあちゃんが借りた分を
合わせたら、数千万になるらしい」
 
 
もう、言葉が出なかった
 
 
「え、まって。
ついこないだシンガポール行ってたやん」

やっと絞り出した。
 
「そう、そのお金も、
友達から借りたらしいねん。
一緒に行ってた〇〇さんから。」
 
 
絶句。
 
 
しばらくたって、
やっと状況を理解して
「いや、でもお父さんに
言わんことには、やん?」
 
「でも、ゆうてさ、
おばあちゃん追い出すって
ゆわれたらどうしたらええん」
 
 
喋りすぎたからだろうか
それとも、胸につかえるものがあるからか
 
 
掠れた声で母は言った。
  
 
そこからは、2人とも
言葉を交わすことなく、
しばらくして、遅いから
もう寝なさいと言われて
自分の部屋に戻った。
 
 
私は、何度も言うが
おばあちゃんが好きだった。
 
 
豪快で、わかりやすくて
誰にでも好かれる祖母が。
 
 
だからこそ、お金を貸してくれる
友人がたくさんいたのかもしれないが
 
 
それにしても、
やっちゃいけないことを
していると思ったし
  
 
今まで見ていた祖母は
虚像だったのか、それとも
子供には見せる必要が
なかったからなのか、
はたまた、死を間際にして
剥がしたくないベールすら
剥がれてしまったからなのか
 
 
結局、何も答えが出ないまま
一睡もできないまま
明日からいつも通り祖母に
接することが、できるのかわからないまま
朝を迎えた。

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