見出し画像

私の中のジュークボックス

竹ノ塚という、活気あふれる街がある。ここは私が生まれ育った場所だ。
去年の3月、その竹ノ塚にあったイトーヨーカドーが、45年の歴史に幕を下ろした。昭和から令和にかけて、多くの人々の記憶に刻まれたこの場所には、さまざまな思い出が詰まっている。そしてその中には、私自身の大切な思い出もある。

正直に言えば、このイトーヨーカドーがなければ、今の私の音楽活動はなかったかもしれない。

小学生から中学生に上がる頃、平成の子どもたちは、公園で遊ぶ、友達の家でゲームをする、ポケモンに遊戯王。そんな選択肢の中で、私はヨーカドー3階のゲームセンターにいる。

「ゲームセンターは危ない場所」というイメージがなんとなく共有されていた当時、ヨーカドーの中にある「子どもでも安心して遊べるゲームセンター」は、私たちにとって特別な存在だった。ある日、仲の良い友達から「ポップンミュージック」という音楽ゲームの話を聞いた。それが私の人生を少しずつ変えていく始まりだった。

ポップンミュージックは、大きな画面と手元に並んだ9つのカラフルなボタンを使い、流れる音楽に合わせてボタンを押すゲームだ。コンガを叩いているようなプレイスタイルが印象的で、友達のプレイ姿を初めて見たとき、私はそのかっこよさに衝撃を受けた。

それまでの私にとって、ゲームといえばマリオシリーズのような「みんなでワイワイ楽しむもの」だった。けれど、この「音ゲー」というジャンルが持つ魅力に心を奪われ、100円玉を握りしめては毎日のようにゲームセンターへ通うようになった。

最初はまったくうまくいかなかった。音楽に合わせてボタンを押すだけなのに、タイミングが少しでもズレるとミスになる。悔しさを感じながらも、少しずつフルコンボを目指して練習を重ねた。そのうち、ポップンだけでなく、当時のゲームセンターにあったビートマニアやギターフリークス、太鼓の達人などの音ゲーにも挑戦したが、結局一番夢中になったのはポップンだった。

学校では、友達とポップンの話をしたり、キャラクターのイラストを描いたり、二人プレイやろーねーと約束したり、曲を一緒に口ずさんだりして盛り上がった。あの時間は、私の青春そのものだった。

ポップンには、「タッチ」や「すいみん不足」といった有名なアニソンのほか、オリジナル曲が多数収録されている。それらの楽曲はどれもジャンルが幅広く、ポップス、ロック、メタル、ヴィジュアル系、クラシック、トランスなど多岐にわたる。その本格的なサウンドに感動し、「こんなに"音楽"ってあるのか」と胸を躍らせた。気に入った曲をもっと聴きたくて、アルバムを購入するまでになった。2枚組で64曲入り、値段は3,300円。破格だ。私のアルバムなんて10曲で3300円だぞ。

CDを家で聴きながら、手は自然と動き、さながら部屋はゲームセンターだ。その瞬間、私は音楽を「聴く」だけでなく、「感じる」ことを覚えたのかもしれない。

少しずつ大人になり、あの頃より忙しくなり、好きなことも増えて、しばらくゲームセンターに行くことはなくなった。それでも、イトーヨーカドーが閉店すると聞いたときは、胸の中にぽっかり穴が開いたような気持ちになった。ポップンを遊んだ後に食べたポッポの山盛りポテト食べたな。売り場を走り回って店員さんに怒られたな。良い思い出も、恥ずかしい思い出も、そして私の音楽の原点も、このヨーカドーにあった。

いいなと思ったら応援しよう!