【宇宙空間における世界初の無線送受電実験に向け】衛星搭載用レクテナの評価実験を金沢工業大学で実施
自分が生きている間に、このようなSFの世界がまさか現実になろうとしているとは……と思える宇宙空間における世界初の実験が行われようとしている。
先日、勤め先の金沢工業大学の研究施設で評価実験が行われた。
中核技術になっているのは、金沢工業大学電気電子工学科の伊東健治教授の研究成果である。
私が書いた文章なので、以下そのまま転載する。
【宇宙空間における世界初の無線送受電実験に向け】
衛星搭載用レクテナの評価実験を金沢工業大学で実施
2025.1.15
金沢工業大学工学部電気電子工学科 伊東健治教授の研究室とJAXA 宇宙科学研究所(ISAS)田中孝治准教授の研究グループでは、一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構(Japan Space Systems 以下「JSS」)が進める宇宙太陽発電プロジェクトの一環で、衛星搭載用レクテナの共同開発に取り組んでいます。
レクテナ(Rectenna)は、交流を直流に変換する整流器とアンテナを一体化したデバイス。宇宙太陽光発電の実現に欠かせない無線電力伝送の中核技術です。
2025年1月9日〜10日、開発された衛星搭載用レクテナの評価実験が金沢工業大学 電気・光・エネルギー応用研究センター内にある大学保有設備としては国内最大規模の電波暗室で行われました。今後は実験で得られたデータについて評価を行い、軽量展開型膜面レクテナのフライトモデル(実際に宇宙に打ち上げるモデル)を開発。2025年度中に打ち上げ予定の無線送電実証衛星”OHISAMA”に搭載され、世界初の宇宙空間における無線送受電を実施する予定です。
※OHISAMA:無線送電実証衛星(On-orbit experiment of HIgh-precision beam control using small SAtellite for MicrowAve power transmissionの頭文字)
【当研究開発の概要】
一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構(Japan Space Systems)では、経済産業省より委託を受けて、宇宙太陽光発電システムの実現に向けた開発実証等を行っています。
宇宙太陽光発電システムは、宇宙空間に打ち上げた衛星が太陽エネルギーを使って発電し、電波に変換して地上に送電。地上で再び電力に変換して利用する仕組みです。運用時に二酸化炭素を全く排出せず、また地上の太陽光発電と比べて昼夜や天候に左右されない、安定した電力供給が可能になります。
この新エネルギーシステムの中核技術となるのがマイクロ波による無線送受電技術です。金沢工業大学電気電子工学科 伊東健治教授の研究室が開発したレクテナでは世界最高の電力変換効率を誇っています[1]。今回のレクテナでは、新たにGaAs整流器ICと膜面トラスに搭載する薄型アンテナを開発しました。
現在構想されている宇宙太陽光発電衛星は太陽電池・送電パネルが約2km四方と超大型になるため、その構造には軽量性、収納性、大型化の容易さが求められます。そこで軽量かつ収納効率が高い構造物として自己展開膜面トラス(三角形を基本単位としてその集合体で構成する構造形式)が検討されています。
2025年に打ち上げが予定されている無線送電実証衛星”OHISAMA”は150kgの小型衛星で、搭載される軽量展開型膜面レクテナのフライトモデルは、JAXA 宇宙科学研究所と総合研究大学院大学が自己展開膜面トラスのとりまとめと評価を担当し、金沢工業大学の伊東研究室が宇宙空間で耐性が高いGaAs(ガリウムヒ素)整流器ICの設計とレクテナの詳細設計・評価を担当。日本アンテナがフライトモデルの詳細設計・製造を担当します。
[1] N. Sakai, K. Noguchi and K. Itoh, "A 5.8-GHz Band Highly Efficient 1-W Rectenna With Short-Stub-Connected High-Impedance Dipole Antenna," IEEE Transactions on Microwave Theory and Techniques, vol. 69, no. 7, pp. 3558-3566, July 2021, doi: 10.1109/TMTT.2021.3074592.
[2] 中村壮児・折居遼平・宮﨑康行, ”軽量展開型膜面レクテナの開発,” 宇宙太陽発電Vol.9, pp.8-13, 2024. https://doi.org/10.24662/sspss.9.0_8
( https://www.jstage.jst.go.jp/article/sspss/9/0/9_8/_pdf/-char/ja)