【高い臨場感で救命措置が学べる】AR(拡張現実)を使い、訓練用マネキン上に心臓や血管、傷病者外観を再現
AR(拡張現実)を使い訓練用マネキン上に心臓や血管、傷病者外観を再現した金沢工業大学大学院生の研究が、ヒューマンインタフェース学会による「ヒューマンインタフェースシンポジウム2024」で「優秀プレゼンテーション賞」(審査員による選考)を受賞した。
どのような研究なのか以下紹介しよう。
実際に心肺蘇生を行う状況では、練習時と同じように行うことができないということがよくあります。そこで山本知仁研究室では、より現実的な状況で心肺蘇生を練習できるAR(Augmented Reality 拡張現実)システムを構築。訓練用マネキンに死に際の呼吸や吐血などの現実的な状態をCGで提示するとともに、センサーによって胸骨圧迫の状態をモニタリングし、心肺蘇生が適切に行われているかどうかを評価できるようにしました。
受賞した「視覚的リアリティを考慮したAR救命講習システム」について
[論文名]視覚的リアリティを考慮したAR救命講習システム
[筆者]蓮見 大(金沢工業大学大学院工学研究科情報工学専攻博士前期課程2年)
荒木 理佐(金沢工業大学情報工学科2024年3月卒業)
西 大樹(広島国際大学 保険医療学部救急救命学科)
山本 知仁(金沢工業大学情報工学科教授)
[研究の概要]
一般の人々が心肺停止状態の傷病者に遭遇した件数は毎年約25,000名にも上ります。一方で 傷病者に適切な措置を行うことが難しいことから、心肺停止の傷病者を目撃したケースのうち、 約4割は心肺蘇生を行っていないことが知られています。
医療従事者を除く494人の20歳以上の男女に対して行われた救命処置とAED使用に関する意識調査では、約42%が救命講習を受講したことがないと回答しています。また、たとえ救命措置の手法を学んでいたとしても、実際の現場で救命措置を行う際には抵抗や不安があることも明らかになっています。
実際に心肺停止の傷病者を目の前にした際に、行動ができるようにする講習のひとつに、VR(Virtual Reality)を使用して救命措置を学ぶ方法があります。
そこで山本研究室では、救命措置の中でも重要度が高い胸骨圧迫と傷病者の外観について学べるAR救命講習システムの構築をめざしました。心臓や血液が動いている様子や、顔面蒼白、出血などの様子をCGで再現し、訓練用マネキンに提示することで、高い臨場感で救命措置を学ぶことができます。
[システムの概要]
●胸骨圧迫
訓練用マネキンと複数台のiOS端末で構成されます。
訓練用マネキンは心臓の位置が明示されておらず、圧迫部位が分かりづらいことが課題となっています。そこで本システムでは心臓の位置としてマーカを用意。iOS端末のディスプレイ上では訓練用マネキンの画像上に心臓と血管の3Dモデルが表示されるようにすることで、適切な姿勢で表示デバイスを観ながら胸骨圧迫ができるようにしました。
また胸骨圧迫を行い、脳に血液を送り酸素を供給することで、脳細胞を壊死させないことが重要なため、本システムでは3DCGで胸骨圧迫により心臓から脳へ血液を送る様子も再現しています。
さらに本システムでは、LIDAR※を用いて、圧迫回数、圧迫解除数、圧迫速度および圧迫深度も表示できます。
※LIDAR(ライダー Light Detection and Ranging)
パルス状に発光するレーザー照射に対する散乱光を測定し、対象までの距離などを測定する技術
●傷病者外観
ARを利用して傷病者外観を再現しました。
・顔面紅潮・蒼白
訓練用マネキンに3DCGを重ね、症状を再現
・死戦期呼吸
心停止直後に見られる、大きく口を開き、しゃくりあげてあえぐような呼吸をARで再現
・嘔吐痕・吐血痕
嘔吐痕では黄土色、吐血痕では赤黒色の液体が口から噴き出すようアニメーションで再現
・出血
3Dモデルの脇腹に傷口を用意。傷口から血が出るようした。複数の血が流れるアニメーションで、それぞれ流れる速度も変えてリアルな動きになるよう再現
山本研究室では、今後、実際の救命講習の場で評価実験を行い、改良を加えていく予定です。
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