地元の方言を話者なりに思い返してみた話
少し前に大阪弁レベルみたいなネット診断テストがついったで流行っていたらしく、『来ないの大阪弁は「けーへん」が一応正解です』といったりついーとをタイムラインで見かけた。
曰く、
「きーひん」は大阪北部の一部や主に京都系の言い回しで、
「こーへん」は主に兵庫の方だったり、共通語の「来ない」と「けーへん」がミックスして出来た比較的新しい言い方らしい。
現代は人の行き来も頻繁なので大阪の人でも全部使いますよ、と締め括られていた。
このときふぉろわさんが流行りに乗る中私は自分も当該の診断テストを何故かやるのではなく、はてこっちだとどう言ってたかなあと記憶と習慣を辿る思考の旅に出ていた。
私はこの話題に出ていた大阪よりもさらに西、中国地方は広島の生まれである。
主に南部の中心地近郊であり、安芸郡で産声を上げ、幼少期を広島市で過ごし、呉市で長年暮らした後に数年を安芸郡で寝起きしてからの、現在も広島県在住という根っからの広島の民だ。
両親も地方は違えど広島の生まれ育ちなのでもはや骨の髄まで生粋である。
ただ、我が常葉家では母だけが北部の山麓出身なので、話す言葉自体は充分通じるが稀に異なる響きをしていたことはあった。
これはそんな広島生まれ呉育ちの現行広島県民が、りついーとで回ってきた話題に端を発し、こっち(広島)だとどう言ってたかな?と振り返る過程で1人勝手に思考の枝葉を伸ばしていった話である。
※方言というのは同県内でも地域地方によってさまざまに派生するのが当たり前であり、また時代や年代、世代層によりそれぞれ特色があったり幅や違いが出てくる繊細な生き物のようなものなので、
「同じ広島県民だけどそんな言い方してないよ!」
ということも充分にあり得ます。
あくまでこんなケースがあるんだよ、という前提でお楽しみください。※
さて、私:紫水は小学校の中頃でゆとり教育が導入された世代である。
私より上の世代の方には生まれた翌月に昭和の歌姫が世を去り、半年後には壁が崩壊したとお伝えしておこう。
そんな私の話す広島弁の場合、“来ない”はだいたい「こん」になる。
話題に上がっていた「けーへん」の響きに近いものとなると、こっちでは「きゃーせん」が挙げられるだろうか…。
意味としては“来やしない”的なだいぶ強い否定口調になる。
この言い方をするときはかなりブチキレてるか、もしくは呆れ返ってる可能性が高い。
先にも注釈したが、方言とは細かく枝分かれする存在である。
もちろん広島弁も例には漏れず、県内でだいぶ派生というかタイプが分かれるためこうと一概には言えないのだが、生まれは広島育ちは呉で片親が北部生まれの紫水は、実は幼少期あまり方言の単語とは縁がなかった。(※皆無とは言っていない)
当時住んでいた広島市近郊は広島弁の中でもどっちかというと標準語寄りの方で、単語としてはさほど大きく訛っていない。
イントネーションの方はもうモロ全開で出るけども。
割と全域じゃないかなーと思うものは皆、語尾だとか文脈の方に出ているイメージなのだ。
否定:
しない・来ない・見ない => せんorやらん・こん・みん
進行形:
してる・来てる・見てる => しよるorやりよる・きよる・みよる
このあたりはこれまで住んでいたどの地域でも、聴き馴染みのある慣れ親しんだものじゃないかと思う。
中でも「~よる」は、直後にある よ の音が前にくっついて「しょーる」とか「やりょーる」みたく伸びることもままあった。
ちなみにこの進行形の方は「~よる」派生と「~とる」派生があって、
してる・来てる・見てる => しとる・きとる・みとる
の変化もある。
けどこれもしや過去進行形とかいうやつか……?
(※紫水は国語の成績自体は悪くないが品詞や文節だけは局地的に不得手な人間です)
呉市だとこの「~とる」派生から更に派生して
しとる・きとる・みとる => しちょる・きちょる・みちょる
になったりする。
こうして自分の方言を振り返ると、【てる=>とる】変換と【てる=>よる】変換は結構多いなあと思った。
同じく【ない=>ん】変換と【す(る)=>し】変換、【す(る)=>せ】変換も多い気がする。
【なさい=>んさい】も頻出だろうか?
標準語表記で「寝なさい」は広島弁だと「寝んさい」となる。
別の例として標準語の「いい加減にしろよ」は広島弁だと「ええ加減にせえよ」で、1番のアクセントは最初の「え」か、もしくは「せ」になる。
前者は割合静かな方でまだ理性の利いた言い方だが、後者はバトルのゴングが鳴り響く瞬間である。
“広島弁は怖い”とよく言われるが、それは単にブチ切れたところをたまたま耳にしているだけで、普段のテンションではなんとものんびり和やかな響きをしていることも多い。
あと忘れてはいけない、広島弁といわれてほとんどの方が思い浮かべたときに高確率で出てくるであろうこの言葉。
みんな大好き「じゃけえ」である。
あの「じゃけえ」という言葉、実は複数の訛りが重なっている。
自分なりに分解してみると、
【だ=>じゃ】変換 + 【から=>けえorけん】変換
になるのだ。
なので広島弁として真っ先に挙がる「じゃけえ」とか「じゃけん」は、もし標準語に直すとするのなら、多くの場合「だから」にあたる言葉である。
いくら広島弁ネイティブといえど、いやむしろネイティブだからこそ、広島弁話者にとって「じゃけえ」も「じゃけん」も使用頻度はそんなに高くない。
「~からねえ」という文脈で「~けえねえ」や「~けんねえ」だとか、もしくは「~けえ」や「~けん」というのならまだなくはない。
(ちなみにこの「~けん」という語尾の変化は中国地方全体の割と初期装備であるので、中国地方や四国など、一部九州地方の方にもよく見かける訛り方である。)
「広島県民なのに「じゃけえ」って言わないの?(・ω・)」
と他県民から聴かれる広島人は結構多いのではなかろうか。
私も結構言われた記憶があるが、そんなことを言われましても…というのが本音である。
しかしこの一言、他県の方は本当にただ素朴な疑問を口にしているだけなので広島人は食って掛からずそっと着席してあげてほしい。
広島弁はもちろん方言もあるがとりわけイントネーションに特に強く訛りが出るみたいなところがあるので、普段喋っていると方言らしき単語の出没率は他県のみなさまが思っているよりも少ないのでは、とぼんやり感じている。
「広島弁喋ってよ!」
と言われた際、素直に応じると
「ナンカコレジャナイ(´・ω・`)聴きたかったのと違う……」
と十中八九微妙な反応をされてしまうので、「~なんじゃけんね!」のようにわざと「じゃけん」を語尾に付け足して応えるようにしている。
期待に添えなくてごめんな…私の親よりちょっと上くらいの世代なら使ってたかもしれないけど私は言わないんだわ……。
こうしてネイティブとノンネイティブの溝は深まっていく。
話を戻そう。
【だ=>じゃ】変換もそういえば文脈中やら語尾でよく出る方だなと思う。
だし・だね・だけど => じゃし・じゃね・じゃけど
※だよ とか だぜ はそのまま。
じゃよとかじゃぜは私は聴いたことがない※
「~だろ(う)?」も【だ=>じゃ】変換が起きて「~じゃろ(う)?」になる。
「~でしょ(う)?」もこれに同じ。
この【だ=>じゃ】変換は、主に関西圏で見かける【だ=>や】変換にあたるので、割かし掴みやすい方じゃないだろうか。
例)~だろ・だし・だけどの場合
└>関西圏:~やろ・やし・やけど
└>広島:~じゃろ・じゃし・じゃけど
ただ、広島でも関西圏の言い方はするので人によっては両方使ってたりすることもある。
私はどっちも使っている。
ここまで思考の枝葉を辿ってみて、そういえば広島弁には【そう=>ほう】変換もあることに気付いた。
そうか・そうよ・そうだ => ほうか・ほうよ・ほうじゃ
このうち「そうだ」に至っては【だ=>じゃ】変換も複合で起こるので、「ほうだ」ではなく「ほうじゃ」になる。
「そうだそーだ」は「ほうじゃほーじゃ」で「そうよそーよ」は「ほうよほーよ」である。
標準語表記でそうだねえ、とする場合、広島弁でほうじゃな、もしくはほうよねえorのう、といった感じだ。
世代が上になるほど「じゃ」の、下になるほど「よ」の使用頻度が高くなる。
ついでに言うと関西圏でいう「へーそうなん」は広島弁だと「ほうねえ」がそれにあたると思う。(※感じ方には個人差があります)
具体的なイントネーションとしては「ほう→ ね↑ え↓」となり、アクセントは「ね」の部分である。
最後の「え」音は人によっては消え気味かもしれない。
広島弁、ときどきイントネーションが文章のしっぽで心電図みたいな跳ね上がりと急降下のしかたをするところがある。
アサシンは「ア↓ サ↑ シ↓ ン」だし私の名は常葉 紫水(と↑ き↓ は し↑ す↓ い↓)である。
もう7年近く前のことになるが、ソロ楽曲のナレーションで『地の利』という言葉が出てきたときに、私はこれを「ち↓ の↑ り↑」と発音していて、後に東京生まれの友人から
「『地の利』は「ち↑ の↓ り↑」だよ、それだと『血糊』になるよ…」
とご指摘を戴いたことがあり、私はこのとき初めてこのイントネーションが全国区でなく訛りであると知った。
この言葉が出てくるシーン、場面としては超絶どシリアスな戦闘場面のはずなのだが作者の知らないうちにドラマの撮影現場になっていた。
地方出身方言ネイティブで県外に出る機会もない創作人間の恐ろしいところである。
正直もっと恐ろしいと思ったのはこの収録に立ち会った者の誰も違和を訴えなかったことだけれど。
音源書き出してマスタリングする前に知りたかったな……。
ちなみにあくまで体感としてではあるけれど、男性話者の場合は語尾が「のう」になることが、女性話者の場合は「ねえ」になることが少しだけ多めで、「なあ」はどちらも使っていると思う。
みなアクセントは1音目であるし母音は「ー(長音/伸ばし棒)」になったりもする。
ただ広島弁バリバリで強い「な↑ あ↓」が語尾だと、そのときの語感やTPOにもよるがもしかしたらちょっと、いや結構イラッとしてるかもしれない。
そして、世代が若い方へ下っていく毎にこれらの語尾は使われなくなってくる印象である。
特に「のう」は、私の世代より若い方だと聴かなくなったような気がする。
年代世代を経る毎に、じわじわ標準語の方へ帰依していると思っている。
あくまで私の周りでの話なので、今でも現役なのかもしれないけれど。
単語が訛ってなくてもイントネーションは変わらずだだ訛りだし。
今後も広島県から出る予定はないので、きっと自分から訛りが抜けることはないと思う。
交流のある家族親族も妹以外は全員広島暮らしだし、私自身嫌いじゃないのでこれからも変わらず広島弁ネイティブだろう。
怖いと言われがちな方言の広島弁だけど、常時の広島弁はのんびりまったり和やかなものもあるともうちょっと知られてほしい。
どこの言葉だろうが怒ったら怖いです。
あと、もしこれを読んでるあなたがご自身の創作キャラに広島弁を喋らせてみたいと考えているのなら、この記事がほんの少しでもお役に立てたらいいなと思う。
今回私が挙げたのは広義の広島弁であり、更にその中でも割と初歩的な部分だと思うので、現代日本の若者の設定でいくなら充分使えるだろう。
おじさんより上の世代のお歳だったり、年代世代問わずコッテコテの広島弁スピーカーにしたい場合はこれだけだとかなり薄いかもしれないけれど。
広島市生まれ呉市育ちと県南部の話者でよければケースによってはもしかしたらお答えできるものもあるかもしれないので、その際は気が向いたときにでもお声掛け戴ければ幸いだ。
広島弁、もっとよーけ使われとるん見てみたいわあ…あんた、ちーと使うてみてくれん?
よー怖いこわい言われよるけどよ、そんな怖あないんよー。
ちょっとでええけ、ね?
増えてくれたら嬉しいんやけどなあ(^ヮ^*
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