■もはや「東京問題」ではない 新型コロナの感染拡大
(転載記事です:もはや「東京問題」ではない 新型コロナの感染拡大 | ちえのたね|詩想舎 https://society-zero.com/chienotane/archives/8835
※JPG画像はブログ記事でご確認ください。画像が見れると楽しいですよ。 )
今から一週間前、GoToトラベルキャンペーンの実施に関連して7月16日、政府の新型コロナウイルス対策の分科会の尾身茂会長が「旅行自体に問題はない」「旅行自体が感染を起こすことはないから」と発言しました。
他方、その一週間後の7月23日、東京都内で新型コロナウイルスの感染者は、これまで経験のなかった「1日当たりの感染者数が300人超え」となり、366人。全国でも感染者数は981人となり、2日連続で1日当たりの最多を更新しました。
・7月23日の新規感染者数
https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/07/20200724-OYT1I50026-T.jpg
(全国の感染者981人、2日連続で最多を更新…都内ほぼ全域で感染者を確認 : 社会 : ニュース : 読売新聞オンライン https://www.yomiuri.co.jp/national/20200723-OYT1T50232/ )
新型コロナはヒトの移動で伝搬していく
感染症にも種類があります。感染症を感染経路で分類すると、
・動物や昆虫から人へ感染するもの(例:ペスト=のみ、マラリア=蚊)
・土の中などにいて、傷口などから感染するもの
・食べ物から感染するもの(例:コレラ、腸チフス))
と並び、最後に「人から人へ感染するもの(例:インフルエンザ、結核)」があり、新型コロナはこれに該当します。
さらに「人から人へ感染する」を因数分解するとこうなります。
つまり、人が人に会うために「移動」し、そこで会話、飲食し、飛沫感染でウイルスが移り、その人の細胞内に侵入して曝露、感染(細胞内増殖)し、発症(症状がでる)していきます。あるいは、人が「移動」しドアやPCにウイルスのついた手で触ると、そこにウイルスが付着して、そのウイルスが他の人の手に触れることで接触感染を引き起こします。
確かに、人の「移動」だけで「感染」はしません。これは尾身茂会長の「旅行自体が感染を起こすことはない」という発言の通りです。しかしこの発言は、「感染」に限って言うと正しいのですが、新型コロナの病原体であるウイルスの移動(=伝搬)はヒトを介してしか起きないので、「伝搬」に限ると、ミスリードです。旅行という人の移動でウイルスが移動し、移動した先での「飛沫感染」「接触感染」が起きる可能性を尾身会長は否定していません。
二週間前を表わすデータ 「新規感染者数」
「新規感染者数」は二週間前を表わすデータです。つまり二週間前の政府や自治体の感染対応策と、個々人の行動、その結果が現れる数値です。逆に言うと、ただいま現在行っている対応策(例:GOTOトラベルキャンペーン)や個々人の行動は二週間後にならないと見えてきません。
7月23日の数値、新規感染者数は東京都の366人ばかりでなく、大阪府は104人で2日連続の100人超。愛知県97人、福岡県66人、埼玉県64人で、いずれも過去最多の前日を上回ったほか、滋賀県や奈良県なども最多となり、全国的に感染の拡大傾向がみえていますが、いずれもあくまで、二週間前の政府や自治体の感染対応策と、個々人の行動、その結果が現れている数値です。
・東京都内の新規感染者数の推移
https://cdn.mainichi.jp/vol1/2020/07/24/20200724ddm001040124000p/9.jpg
(新型コロナ 全国981人、東京366人 感染最多 - 毎日新聞 https://mainichi.jp/articles/20200724/ddm/001/040/111000c )
この数値はもうひとつ、使い勝手の悪さがあります。感染状況を把握しようというとき、数字の上げ下げだけで一喜一憂しがちだという点です。一喜一憂のあげく間違った判断にミスリードされる恐れさえあります。現在どこの自治体でも、一週間移動平均の考え方で調整された数値を見て、現況(2週間前ではありますが)把握に努めているのは、このためです。
菅官房長官をミスリードさせた「新規」感染者数
さてもともと政府は、4月7日の閣議決定で、緊急経済対策につき「Go To トラベル」を含むキャンペーンを「感染症の拡大が収束し、国民の不安が払拭された後」に実施する」としていました。それが覆ったのが7月10日。
「これまで「8月の早いうちに」と会見で申し上げてまいりました開始時期を大幅に前倒しし、7月22日水曜日以降の旅行から、まず、旅行代金の割引について、先行的に開始をすることといたします。」
(大臣会見:赤羽大臣会見要旨(2020年7月10日) - 国土交通省 https://www.mlit.go.jp/report/interview/daijin200710.html )
https://www.travelvoice.jp/wp-content/uploads/2020/07/thumb_w800_f9742fd6-b033-4e61-a844-5326f950c478.jpg
(Go To キャンペーンの開始日決定、7月22日以降の旅行なら予約済みでも後日還付、地域共通クーポンは9月以降に | トラベルボイス https://www.travelvoice.jp/20200710-146622 )
「北海道」「東北」「北陸」「信越」「北関東」「南関東」「東海」「近畿」「中国」「四国」「九州」「沖縄」などのブロックに分けて、自分の住んでいるエリア内の旅行において「Go Toトラベルキャンペーン」をスタートさせる方法もあったはず。
が、なぜか全国一律に固執のあげく、その後の新規感染者数の増加からの批判を背景に、急きょ、7月16日、同事業の割引対象から東京都発着の旅行を除外する方針を決めました。
(・GoToキャンペーン迷走で加速する官邸地盤低下 https://toyokeizai.net/articles/-/363716 )
この、いわゆる「東京外し」、それをしてまで全国一律に固執したのには伏線がありました。これより先、7月11日菅官房長官は、北海道千歳市内での講演で、「この問題は圧倒的に東京問題と言っても過言ではないほど東京中心の問題」と発言していました。
(・「圧倒的に東京問題」「国の問題」 菅長官VS小池知事 https://www.asahi.com/articles/ASN7F6K2GN7FUTIL028.html )
この発言は、「新規」感染者数にミスリードされたあげくの判断であった可能性が高いです。
東京の数値と東京以外の各都道府県小計(非東京)とを比較すると、たまたま東京のデータが非東京を上回ったのが、7月9日だったからです。下図、折れ線グラフの通り、「東京」はおおむね「非東京」を下回っており、トレンドとして「圧倒的に東京問題(菅官房長官)」と状況認識するのは間違いだったと言えそうです。
図:新規感染者数 推移 ~7月13日
https://society-zero.com/chienotane/wp-content/uploads/2020/07/covit-19_shinki0713-1.png
図:新規感染者数 推移 ~7月23日
https://society-zero.com/chienotane/wp-content/uploads/2020/07/covit-19_shinki0723.png
「非東京」が「東京」より、感染者数の伸びが急
ところで一週間移動平均の「新規感染者数」に実は欠点があります。フローデータであるが故の欠点があるからです。医療体制の逼迫状況との関係を把握するには、フローデータである「新規」より、ストックデータである「現在感染者数」のほうが合理的です。
現在感染者数 = 累計感染者数 - 回復者(退院)数 - 死亡者数
(東京都民のための【新型コロナ|5つの指標】 | ちえのたね|詩想舎 https://society-zero.com/chienotane/archives/8773 )
この数値の推移を見ると「感染拡大」が急であるのは、東京よりそれ以外の地域であり、新型コロナへの構え、対策構築は「東京問題」に限定せず、他府県へ広げて検討すべきことがわかります。
図:現在感染者数 推移 ~7月23日
https://society-zero.com/chienotane/wp-content/uploads/2020/07/covit-19_genzai0723.png
世界を見渡すと経済活動と感染防御との政策バランスの中で、経済活動に比重を置き国民から非難されている国もあります。ありますが、わざわざ税金を使って感染状況を悪化させる施策を打つ国は、ありません。
二週間後、「Go To キャンペーン」が税金を使ってわざわざ感染を加速させた、といったことにならなければよいが思います。
◎次に読みたい記事:
・もはや「夜の街」ではない 東京から全国へがコロナの課題 | ちえのたね|詩想舎 https://society-zero.com/chienotane/archives/8806