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形が変化する獅子舞!沖縄の伝統的な暮らしが残る宮城島、町や海で演舞

獅子舞の生息のため空間や時間の余白、他人への寛容さなどを探る。この試みを獣の住処を探す感覚で「獅子舞生息可能性都市」と呼ぶ。獅子舞の制作と町への出没、舞い歩きを通して、3人組のアーティストユニット「獅子の歯ブラシ」はその可能性を追求する。

今回訪れたのは、沖縄県うるま市の宮城島。メンバー3人の共通の友人でもあるプロモーションうるまの菊池竜生さんのコーディネートの元、滞在が実現した。この島に獅子舞(シシ)は生息できるのか?メンバー・稲村の視点でこの滞在を振り返る。

都市と対極にある、宮城島の暮らし

宮城島は沖縄県東部に位置しており、那覇市のような都市の暮らしとは対極的に古い沖縄の暮らしが現代に残る島だ。人口は600人前後であり、過去の滞在の中では最もミニマムな人口規模のコミュニティと言える。この地に2023年5月29日から6月4日まで滞在した。

展望台から島全体を眺める

前半は宮城島のリサーチに費やした。島全体は2時間半程度で自転車で走破できるコンパクトな島だ。最も高い台地ではサトウキビ畑が大半を占めており、海と高地の狭間に集落の暮らしの場があり、海に面した場所にはビュースポットや有料ビーチ、秘境の浜などが存在する。産業としては、サトウキビの生産や漁業が盛んである。

伝統的な作りをした家屋、屋根にはシーサーがいる

また、宮城島でのリサーチは徳島県神山町の時と同じように、地域の仕事をさせていただくことで、その土地への理解を深める方法を実践。果実の収穫、草刈り、シンク修理、仏壇運びの準備、包丁研ぎ、屋根塗りなどを通して、土地の暮らしを体感することを大事にした。それに加えて、アゴーリバという、地域の食堂などに集い、土地の人との交流を深めた。それらをヒントにして、シシを制作した。

地域の方々との食事会
草刈りのお手伝い

暮らしの中に「魔除け」がある

宮城島には、生活に近いところに、アニミズムのような信仰が根付いている。その信仰にまつわる、有形、あるいは無形の文化が非常に興味深い。

建築物の屋根には、多種多様の魔除けのシーサーが乗り、門にも飾り用のシーサーが存在する。また、門にはしゃこ貝や水字貝という貝が置かれている。いずれも火除けの意味を持つという。

また、数々の丁字路や三叉路に石敢當が存在する。これは、一方向しか進めない物怪「マジムン」が直進してきて家に入ってしまわないようにするという一種の魔除けである。これは、ある種、身近な動物である蛇や猫が後ろに進むことができないこととと、何か関係があるような気がする。実際にマジムンとはハブのことであるという説もある。また、マジムンに股をくぐられると死ぬという言い伝えもある。

家の塀に設置された「石敢當」

また、マブイグミという魂込めの儀式がある。人は急に転んだり、木から落ちたり、びっくりしたりすると、マブイという魂が体から離れてしまう。そこで、マブイが落ちたと思われるところに出向き、塩、おにぎり、水などを供えてマブイを戻す儀式をする。これはトイレの水を汲むことでも同様の意味があるようで、厄を流していくようなトイレという存在が魂を汲み出すという役割を持っているのは非常に興味深い。ユタ(霊媒師)に頼むのは相当な時で、普通は近所のおばあでもマブイが落ちているかどうかを判断する能力が備わっている。なぜおばあなのかは、興味深いところだ。

このように、生活の身近なところで、祈りが存在し、それは一神教の神というよりは、多神教の八百万の神の存在を思わせる。これらの目に見えない世界と繋がっている人々の暮らしが、さまざまな想像を掻き立てて、今回のシシ制作に大きな影響を及ぼした。

獅子頭は無し、身体を縛るシシづくり

最初の発想は、手足を縛ることだった。手足を縛ると、身動きが取れない状態になる。くねりながら身体をひねり前に進む。まっすぐにしか進めない。この行為がヘビやネコなど土地のケモノを表すとともに、曲がりくねった迷路のような道が続き凸凹道の多い、宮城島の集落そのものを象徴することになるのではと考えた。また、ヘビに股をくぐられると死ぬという伝承をヒントに、股を閉じながら進むシシという存在を想起した。人々の祈りの形とは、身体の制約から生まれるのかもしれない。

しかし、実際に手足を縛りすぎると、舞いの可動域が制限されてしまう。どことなくためらいが生まれたので、実際に手足を縛ることはしなかった。ただ、工藤と稲村が釣り糸や古布で作られた綱を媒介として繋がることで、お互いの身体に制約が生まれるとともに、獅子の歯ブラシメンバー全体としての演舞の統一的な物語が生まれた(後述)。

衣装の特徴としては、船山が島の源である石灰岩で作られた珊瑚を削ってできた笛を鳴らした。工藤は珊瑚を首から垂らした飾りを身につけた。また、古布を撚り合わせて、シシと交信ための縄をなった。稲村は古布を被り、蔓を蒔き、貝の首飾りやイヤリングを身につけ、バナナの葉を尾のように腰にくくりつけた。シシに使用する衣装が身軽で装飾性が高く、はっきりとした獅子頭を持たないという意味では、2022年8月に東京・渋谷で制作したシシとも類似している。

近所の方からいただいた古着を見る
稲村が首からかけたネックレスに使われた貝

舞い歩きながら、シシは変化した

それでは、実際の演舞の様子を振り返っていこう。

6月3日17時~18時半 演舞① 宮城島住居区域

名護家に始まり、名護家に始まり、名護家に終わる舞いを実践。試しにやるはずだったのが、これが結果的には沖縄・宮城島のシシ本番となった。

工藤と稲村は糸で繋いでいたものの、次第に稲村は糸を巻きつけていた小指が痛くなってきたので、それを離してしまう。これ以降、工藤は新しい役目を探し出すこととなる。

一方で、魔除けという意味では、石敢當やシーサー、貝などのカタチあるモノ達の厄祓い動作を想像して可視化していった。

途中、身につけていたバナナの葉っぱを撒き散らす、という場面もあった。

その葉っぱを使って町の子どもがシシの動きを真似し始めた。工藤さんはその葉っぱを拾い上げて、シシを叩き始める。

身体的に不自由なシシが解放され自由になった途端、暴れて地域の方々が冷や汗を掻くようなスリリングな状況を作り出した。その結果、バナナという土地固有の素材によってしばかれたという想像もできる。

以上が1日目のシシの舞い歩きのざっくりとした流れだ。演舞後の夜に考えてみたところ、舞い歩きから葬儀までひと通りの流れを完結したと言えるのではないか、という結論に至った。

6月4日13時~13時40分 演舞② 海岸

2日目に本番をやる予定が、前日に実はその演舞から葬儀までが完結していた。それを受けて、もう2日目の演舞をする必要はないという考え方もあった。

しかし、滞在中、毎日のように釣りをしたり、素材集めをしたりしていた「ミンギー」という海岸でどうしても舞ってみたくなった。これが真の葬儀なのか、それとも単なる余興なのか。それを確かめざるを得なくなった。

ここでは、稲村と工藤の連結型の獅子が、腰に紐を巻きつけ共有するという演舞が新たに生まれた。釣り糸を指で持っていると指を圧迫してしまうという反省を生かしたのだ。

演舞後に、工藤さんは「これは臍の緒みたいですね」と話していた。この紐があることで、海と島とのどちらにシシは転ぶかというせめぎ合いが発生した。結果的にシシは海の波打ち際に倒れこんだ。これが真のシシの葬儀の場面のように思えた。

船山は両日共に珊瑚の笛を吹き、また、それらを地面に擦り付けるなどして多様な音を生み出し、シシたちの動きを操るように見守った。また、今回、ドキュメンタリー監督の岸田さんがこれらの一連の流れを記録してくださった。

その映像を船山が編集したのが、この演舞のダイジェスト動画である。

演舞の気づきと、獅子舞生息可能性


静かな暮らしの場が広がっており、町に歩いている人は少ない。チャリに乗っている島外から来た若者たちがいるとなれば、すぐに噂は広がっていく。実際に門付け芸能がない静かな暮らしの場。島の人口は600人、過去で1番ミニマムな共同体での実践となった 。

小さな共同体において、何者か?を名乗ることは重要である。演舞に関しては一部の方への告知のみとしたため、のちに自治会などから「告知してくれたら見に行ったのに」などのご意見も挙がった。人口が少なすぎると、静かな暮らしの場がそこにあり、突然の演舞にはスリリングさがあるという気づきを得た。お手紙を広く投函するなどの今後の工夫も必要なのかもしれないため、この点は今後の課題として検討したい。

一方で地域の子どもは無邪気で、キャピキャピした雰囲気でシシの舞い歩きを楽しんでいた。シシの精神とは、どこか子どもの遊び心と通ずるのかもしれない。シシをどこまでも追いかけてきて、シシが身につけたバナナの葉が道端に外れたとき、それを道路に叩きつけるなどシシの真似をしていた。子どもと大人の反応の違いもどこか興味深く感じられた。

また、坂のある凸凹な道だったからこそ、シシの演舞と演舞を繋ぐ練り歩きの場面の歩き方は、蛇行したりステップを踏んだりとかなり変化に富んだものとなった。これは土地が持つ踏みしめる感覚や高低差などの多様性を象徴しているとも言える。

この多様性の根元には何があるのだろうか。シシを作っている時から薄々気づいていたのだが、岩手県遠野市での実践と同様に、かなり土地の信仰が多様であり奥深い。シンボリックな何かがあるわけでもないので、土地の文脈を読み解きづらく、シシ作りには苦労した。

実際に集落内を演舞してみると、予想と異なる物語が生まれた。シシの形態が途中で変容するという前代未聞のカメレオンのようなシシが生まれたのだ。土地が持つ力は計り知れないように思われた。一方で海での演舞はスムーズだった。獅子の歯ブラシのメンバー全員がバチっと息の合った演舞ができた。

静かで小さな共同体とおおらかでどこまでも広がる海が共存した島だったのである。基本的に告知をすれば受け入れてもらいやすいし、獅子舞生息可能性という意味では高かったと思うが、土地文脈の多様性からどこかその生息に対する未知数な感じも面白かった。

道中、舞い歩くシシ

1週間の滞在スケジュール

5/29
バスで宮城島まで移動
滞在先の名護家(ナグンシェア)着
秘境の浜・ミンギーで夕陽を見る

5/30
個人で集落を散歩
近所で果実の収穫をお手伝いする
ミンギーに行って釣りをする※ここで、手足を縛って演舞をするアイデアを思いつく。

5/31
草刈りのお手伝い、シンク修理
午後から各自、宮城島を散歩
稲村は宮城島をチャリで一周
コーディネーターの菊池家とその後友人の田渕家の方々と食事

6/1
宮城島に季節外れの台風が到来
家の中に籠る
午前中、近所の子どもたちが遊びにきたので、一緒に遊ぶ
台風の中をちょっと散歩したり、家の中で演舞のイメージを掴む。シシの原型が生まれる。

6/2
ドキュメンタリー監督の岸田さんが合流

6/3
屋根塗り
仏壇運び準備や包丁研ぎのお手伝い
アゴーリバでお昼をご馳走になり、その流れで古着をもらう
シシの制作
演舞①集落内
アゴーリバで送別会を開いていただく
演舞についてほぼ徹夜の振り返りをする

6/4
演舞②ミンギー

地域の交流拠点であり食堂、アゴーリバにて


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