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洞口依子映画祭パート2 『ザ・ギャンブラー』(92)@渋谷ユーロスペース アフタートーク矢作俊彦監督×洞口依子 2024.10.24


渋谷、ユーロスペース。劇場に向かうエレベーターからして、すでに中年男性でギッシリだった。

3階で扉がひらくと、ロビーも同じような年代の人たちで更に溢れていて、まるでなにかの同窓会の会場みたい。映画関係者も多い。

左手の階段には、チケット発券機で発券するための列ができているので、段々に並ぶことに。

階段のところに、奇術で使うような黒い台があり、金に近い髪色で黒い装い、ジーナ・ローランズのごとき出で立ちの、洞口依子さんが立っていた。長年の闘病を感じさせない、凛としたエネルギーを発している。

そこへ、メガネをかけた男性が近づいてきて、僕のこと分かりますか?と満面の笑みでメガネを外すが、洞口さんは分からない。
ヒノロクショー(日野六小)で一緒だったサイトーミノルですと告げるも記憶が甦らない様子で、放送委員で一緒でしたとか、六年一組?担任✕✕先生?とか記憶をすりあわせる。(思い出せなくて)ごめんね~と申し訳さそうに言う洞口さん。
(追記:この文章公開後、洞口依子さんご本人から〈サイトーミノルくんは後で分かりました。〉とコメントを頂きました)

次に、かなり若い男性が近寄り、今度はあー来てくれたのーという風。ニューヨークから帰国してきたんです、今日観ようと思ったけどチケット完売で、挨拶だけでもと思ってと。海外仕事で一緒になった関係者だろうか。このためだけに帰って来たわけではなくて、NHKの仕事で戻って、ついでに日本で親知らずも抜きに。
せめてもとステッカーを彼に渡す洞口さん。

上映前客席、開場も早くから満席。男9女1。いにしえの中野武蔵野ホールみたいな客席の空気で、神保町シアターよりは若い。ロッポニカが~とかシネマアルゴが~とか言う会話が聞こえて、(Vシネ黎明期のビデオ用映画だが『ザ・ギャンブラー』はシネマアルゴ新宿で公開)当時を生きていた人達が集っているのを実感。まだ映画の青春を生きている、という高揚感が場内に充ちている。

上映終了。拍手がひろがる。

予告ではアフタートークは監督の矢作俊彦と洞口依子だったが、壇上に椅子は三つ用意される。

急遽だったのか、本作の制作だった中村哲氏も参加。洞口さんが呼びかけて、後方の座席で観ていた矢作俊彦監督が、大きな身体をもちあげて、ゆっくり舞台に向かう姿にあたたかい拍手がかさなり、矢作監督は照れなのか自虐的に、退屈(な映画)だったでしょう~というふうに周りに同意を求め、そんなことないよね~(観客の皆さん)と洞口依子フォローする。

記念冊子『YORIKONIA』の寄稿で矢作俊彦は、ゼロ号試写の帰り、洞口に「銃口のような目」で「あんた映画下手だから止めときな。火傷しないうちにさあ」と言われたと書く。そして事実、この『ザ・ギャンブラー』を最期に矢作俊彦の映画監督としてのキャリアは途絶えている。映画の天使からの非情な宣告として響いたのだろうか。

その洞口の前での20年ぶりの上映に、複雑な心境ではあっただろう。そこに洞口によるフォロー。以下、自虐的なボヤキを基本トーンとして矢作監督のトークは続く。制作のかたは困惑する役割。

カット尻がさ、(全部)1秒ずつ長いよね、だから間延びしちゃってて、あ、思い出したんだけど、これ出来上がり八十何分だったの。そしたら日活がさ、九十何分にしてくれって。それで苦肉の策でカットを長めに切ってしまったんだとの弁。

川島透がさ、モンテカルロ、モナコGPに連れてったら映画撮らしてくれると言うもんだからさ。本当に連れてったの。そしたら撮ることになって。

最初は、エースのジョーがいて、時を経て、殺し屋ランキングナンバー1がナンバー2と戦うという話、『殺しの烙印』のその後を描いたシナリオが元々あったの。
え、日活にあったんですか?
イヤ、僕が書いたの、勝手に(笑)
それが、日活のひとが『黒い賭博師』みたいなギャンブラーものにしてくれと言ってきて、無理矢理直した。それでこんな変なかんじになっちゃって。

予算もさ、最初に言われていたのの1/3になっちゃって。三千万。話がちがうよと。それで広げた風呂敷がたためなくなって。話や説明を泣く泣く切って。あとで繋げたらやっぱり画が足りなくて、よく分からない話に。

女傭兵としてのアクションが一見カッコよく見えるが、ぜんぜん動けなかった洞口。寄りのショットなど、カットを割ってうまいこと出来てるように見せてる、高瀬さんのキャメラが凄くて、前田米造さんのお弟子さんだから。ボウリング場の銃撃戦、あそこは浅草のつぶれたボウリング場で撮った。

本当にお金なくて。銃弾一発であんなにかかると思わなかった。ひとつの場面でいっぱい撃っちゃったら、他の場面で使えるぶんがなくなっちゃった。

あのクラブの場面に出てくる、バーセットは自分の仕事場から持っていった。いっぱい出てくる女の子、きれいどころは皆自分(矢作)のガールフレンド。背の高い、いちばん綺麗な子、俺のガールフレンドなのに✕✕さんがお持ち帰りしやがって‥

クラブの場面は人がおおくて、タクシー代が大変なことに。

弁当もヒドくてさあ。俺はさ、ちくわの天ぷらの弁当なんて初めて食べたよ。それがメインなんだから。ヒドいよホント。それで弾がないってんだから‥

川地さんは、あの煙草の丸い輪吐くのが得意で、やってみせていた。
宍戸錠さんは早く帰りたいから、カット割ると言ってもいらないと。だから本番一発のワンカットになったり。
錠さんはすぐ怒って、帰っちゃうんだよ。錠さんが不手際で小道具落としたとき、若いスタッフが思わずクスっと笑ったら、傷ついて帰っちゃった。皆さん、殺し屋は繊細なんですよ(笑)

*

トーク終了後の記念撮影を嫌がり、洞口に説得される矢作俊彦
なんとか説得して、無事に撮影タイム 

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上映後の物販は長蛇の列。レコードやポスター購入者は洞口依子にサインをして貰える。矢作俊彦が、洞口依子に帰りに飯でも食っていこうようと誘うも、「(物販があるから)まだ帰れないのおー!上で待ってて!」と。矢作はダダこねつつ上の階に。

順番が来て、EPレコードを購入する。スタッフとして甲斐甲斐しく働く加藤賢崇(!)に先導されて、洞口依子の前に立っていた。

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