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Photo by
maminote
『奇数の歯を持つ嬰児(中)-c』
きみを風呂にいれていたのは
最初はぼくだった
しかしぼくは
だんだん飽きてきてしまったんだね
他人事みたいでわるいけどさ、
なんで飽きちゃったんだろうな、
きっと思っていたほど
きみがフラジャイルじゃないから
拍子抜けしちゃったんじゃないかな
で、
ぼくはきみの母親である
ぼくの妻に育児を一任した
彼女はじつに頑張った
ぼくの非協力的な態度に立腹しながらも
よく頑張った
この点できみの母親の功績は
ひじょうに大きい
買い物も、
洗濯も、
炊事も、
ぼくは一切手をつけなかった
期待をすっかり裏切った
なぜなら人間にとって
出産が一大難事であるというのは
文化的な概念であると
思っていたからなのだ
きみが知るか知らないかは
ぼくは知らないが
彼女はひじょうに強い人である
強いというのは
文化的な概念から
身体をほどいてやれるからだろう
ぼくはそのように理解していたわけだ
であるからには
出産が一大難事であるはずがない
であるからには
とうぜん翌日からでも
通常業務をこなしていけるに違いない
であるからには
ぼくが面倒をみることもない
であるからには
きみは母親によって
育てられても構わない
であるからには
ぼくは自分の関心事である
ぼくのことにかまけよう
このような論理のいきつくところに
現在のぼくときみがいるのだから
なにも悩むことはないんだよね、
ぜーんぜん
当然の結果なんだから
これで実の親子であって
たまるかってもんだよね
だがもう実の親子になるべき時は
来たのだ
時は来たりぬ、いざなりめやも