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『シューズコレクション』

「シューズコレクション、に寄せる序文」

いまは、息子のことを書いたこの詩集を
『きみは転がりこんできたね』と、
一番最初の詩のタイトルからとってそう呼んで
短くして
いつもは『きみころ』と略していますが、
もともとはずっと
『シューズコレクション』と呼んできました。

というのも、生まれる前から、
この子がどんな子であるかわからないけれども
どんな子であってもそのままそれを受け止めようという
強い気持ちをもっていて、自分たちの期待よりも不安よりも、
きみを受け止めてやるから、どーんと生まれてこいよっっっという
応援に似た姿勢でいたときの気持ちが
この詩の最初に残っているからだと思います。

初心、
大事だよね。

『シューズコレクション』

きみが生まれる前から、
ぼくらは靴を持っていたよ。

きみが男の子か女の子かわからないときから、
ぼくらは靴を持っていたよ。

ぼくの会社の人からもらって、
きみの靴を持っていたよ。

それは赤い靴だったよ。
その靴にはいる足がどんな足か、
ぼくらはお互いに考えたりしたよ。

きみがこの世に来たくなくて
悲しみに変わるといけないから、
ぼくらは口にだしたりはしなかったけれど。

きみのその足のために、
ぼくらはいくつも靴を買ったよ。

幅広の甲の高いその足のために、
ぼくらはいくつも靴を買ったよ。

まだいまでもきみは
左右を間違えてはくけれど。

ファスナーでとめる靴をまだきみは
はきこなせないでいるけれど。

靴をはいて走るときみは、
けんしょう、速いでしょと
すぐ振り返って自慢するね。

ぼくらから離れていくときには
すぐ立ち止まるんだよね。

向かって走ってくるときには
止まらないけれど。

そのとき前髪が上がって、
きみの額がよくみえる。

そこがとても白く見える。
触ってみるととても柔らかい、
きみの額が光ってみえる。

どんな傷も
この子に近づかないでほしいと思う。

きみをぼくらから奪う試みに
会わせないでほしいと思う。

自らそのような愚挙に
及ばないでほしいと思う。

元気でがんばってくださいね、
ぼくらの子供。

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