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『奇数の歯を持つ嬰児(前)3/3-c』

c
前方への移動は四段階を経てはいはいへと達した
まずは前進への意志を持ちながら
寝返りを連続することでそれは行われた
二段階目では両手を前に伸ばしたまま腹ばいになり
バタ足を乱打することで視線と進行方向の一致は得られた
三段階目では両肘を交互に繰り出すことで
ほぼ前進の姿勢は獲得された
あしうらのふくらみの部分を畳と摩擦させてはいはいを完成した
この時期を爬虫類後期と呼ぶことができる

今でもそうかもしれないけど
この時期にぼくのきみへの関心は薄まり
還俗した坊主をみるような忌々しさをもっていたのは本当のことだ
せいぜい人間らしくなっていけばいいじゃあないですか
きみはきみで生きていくしかないのだし
ぼくときたら
どうして自分の人生を隠遁することができようか
自分の子供に期待するより確実なのは
自分に賭けることのほかにはない
さてさて問題なのは自分のどこに賭けるかということなのだが
腕組みで思案をめぐらし
横目できみのはいはいを見物していたわけなのだ
だからやっぱりそうだよな
ときどきぼくがきみを抱いたりしたときにきみは
緊張のあまり困った顔で笑顔をつくろうとしながらも
それが自分で持続できないとわかると
泣いて母親を求めたのだからな
気まぐれな父親というものは処置に困るというのは
ただ母親の主観的な意見ではなかったということなのだよ


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