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『奇数の歯を持つ嬰児(前)3/3-b』

なにしろきみは
口腔的存在とはまだ程遠く
口唇という限定的な場所の狭隘さにも
耐えなければならなかった
中央を残して
両端を上部に丸める舌のかたちは
乳首をそのまま受け入れるのに適しており
乳首をさがしもとめるときの舌の動きは
ぼくが戯れとしてしばしば彼女にしかける
熱心さとはちがって
生存を賭けた
揺るがしようのない運動だったのだ

ぺろぺろ、ちろちろ

と、のぞく舌の赤さは
もしきみの舌先がふたつにわかれているならば
とうてい人間のものとはいいがたいものだった

この時期が
きみの爬虫類時代前期だとすれば
後頭部とかかととで
体重を支えて背をそらし、
なんのかんしゃくをおこしているのかと
いぶかるぼくらをしりめに
それが寝返りの前兆であったことを
かるがると立証し、
最初は左側に回転しては
仰向けになり
天井をみては
また寝返りをしていたのが
つぎには左右自在に寝返ることが可能となり、
腹ばいになり、
しかし腹ばいになったからといって
そこから移動することができないために
前腕と後ろ足でその場に身を起こし
昼寝かに覚めたときなどは
その姿勢で泣くものだから
ぼくには膝をついて泣くその理由が
屈辱にあるのではないかとさえ思われた


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