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現代に生きる我々に「無知の知」を促す一冊

「私達の頭は猿より劣る」 
知らないなら知らないで、直接データにあたるのならともかく、私たちは「知っているつもり」で様々な物事を判断します。  古いデータのままアップデートできていなかったり、勝手な固定観念にしばられていたり。  この傾向は一般人のみならず、各国首脳のようなトップの人達ですら見られることを教えてくれる一冊です。  他人まかせにせず私達一人一人が「無知の知」を自覚し状況を正しく把握する努力を続けなければなりません。



 世界の人口のうち、極度の貧困(1日2ドル以下で生活する人々)にある人の割合は、過去20年で約半分になりました。だがオンライン調査の結果、この事実を知っていた人の割合は、ほとんどの国で10%未満でした。

 1800年頃、世界のどの地域でも、平均寿命は約30歳でした。それまでの人類史において、平均寿命はずっと30歳のままでした。生まれた子供の約半分は成人することなく死んでいったのです。残りの半分は50歳~70歳の間に亡くなっていました。現在の世界の平均寿命は70歳を超え、72歳になっています。

 上記の事実をご存知の方はいらっしゃるでしょうか?
 上記のような事実に関連して、本書の初めに13の質問があり、我々がいかに現状を誤ってとらえているか、その誤りは一般人だけでなく各国の首脳陣や専門機関代表等にも広くみられることが示されます。

 世の中の情報全てを扱うのは不可能です。本書では私達と外の世界の間には、「関心フィルター」という防御壁が存在するといいます。このフィルターにより煩わしい雑多な情報を無視することができるというのです。この関心フィルターには10個の穴があいており、それぞれの穴が本書で説明される本能と対応しているといいます。ほとんどの情報が関心フィルターで取り除かれる中で、私たちの本能を刺激する情報だけが穴から入ってくるらしいのです。
 メディアはこのことを十分理解しており、関心フィルターを通り抜ける見込みがなさそうな情報は、はなから流そうとすらしないので、メディアから得られる情報には偏りがあります。
 例えば「マラリアの感染数、依然として減少」
    「今日のロンドンの穏やかな天気を、気象学者が正確に予測」
 といった、『いい』情報はニュースとして報告されにくいといいます。
 一方、戦争や難民、病気、テロなどは関心フィルターを通り抜けやすく、めったに起きないことのほうが、頻繁に起きることよりもニュースになりやすいといいます。その結果、実際にはめったに起きないことが、世界ではしょっちゅう起きていることだと錯覚してしまうはめになるのです。

本書で紹介される10の本能は以下の通りです。


①「分断本能」:人は誰しも、様々な物事や人々を2つのグループに分けないと気が済まない。そして2つのグループ間には決して埋まることのない溝があると思い込む。
② ネガティブ本能:「世界はどんどん悪くなっている」という思い込み。物事のポジティブな面よりもネガティブな面に気付きやすいという本能。


文中からの抜粋です。"残虐な過去と向き合いたければ、古代の墓地と現代の墓地を比べてみよう。古代の墓地で考古学者が見つけるものの多くは、子供の遺骨だ。ほとんどの子供たちは飢餓や病気で亡くなったが、暴力を受けた痕がある遺骨も少なくない。狩猟採集社会では殺人率が10%を超えることも多く、相手が子供であろうが容赦はなかった。一方、現代の墓地に行くと、そもそも子供の墓自体はあまり見かけないだろう。"
子供の虐待が毎日ニュースで流れていますが、虐待は以前からも存在していたことがうかがえます。

 別の抜粋です。"1990年以降、アメリカの犯罪発生率は減り続けている。1990年には1450万件の犯罪が起きたが、2016年には950万件に減った。しかし、どれだけ犯罪件数が減ろうと、ショッキングな事件は毎年のように起こり、メディアはそれを大々的に報道する。その結果、1990年以降のほとんどの年において、「犯罪は増えていると思うか、減っていると思うか?」という質問に対し、「増えている」と答える人が大半を占めた。多くの人が「世界はどんどん悪くなっている」と錯覚するのも無理はない。"

③直線本能:「グラフは、まっすぐになるだろうという思い込み。」
 実際には直線のグラフの方がめずらしく、直線本能を抑えるには、グラフには様々な形があることをしっておく必要があるといいます。多くのデータは直線ではなく、S字カーブや倍増する線などの方が当てはまります。子どもは生まれてから半年で大きく成長しますが、いずれ成長はゆっくりになることがよい例でしょう。

④恐怖本能:危険でないことを、恐ろしいと考えてしまう思い込み
⑤過大視本能:「目の前の数字が一番重要だ」という思い込み
⑥パターン化本能:「ひとつの例がすべてに当てはまる」という思い込み
⑦宿命本能:「すべてはあらかじめ決まっている」という思い込み
⑧単純化本能:「世界はひとつの切り口で理解できる」
⑨犯人捜し本能:「誰かを責めれば物事は解決する」という思い込み
⑩焦り本能:「いますぐ手を打たないと大変なことになる」という思い込み


 この本は私たちがいかに世界を知らず、誤解しているかを気付かせてくれます。私たちというのは政治に無関心で、社会的なステータスがそれほど高くない”一般的な”人間です。しかし、世間知らずで、誤解をしているのは政治家やジャーナリスト、各国の各種専門家も同様なのです。
 この本に書かれていることは、全ての人間が一度認識しておくべきことだと考えます。
 読んだらこの知識をどこで活かせばいいのでしょうか。
 まず読んで思いました。「そんな事実、全然知らなかった!」
 そして次にこう思いました。「自分はともかく、政治家や国のトップまで事実誤認をしているのなら、一体だれを信じればよいのか!?」
 でもよくよく考えたら民主主義を支えるのは、選挙権をもつ私達国民一人一人です。あてにならない、普段何をやってるかよくわからない高給取りの政治家をつくり出しているのは、他でもない私達自身です。
 この国民にして、この政府ありといったのはイギリスの歴史家 トーマス・カーライルでした。
 この本のコンセプトの一つは「数字で世界全てを知ることはできない。しかし、数字も知らなくては世界などとうてい知れっこない」という考えだと思います。
 他人まかせではなく、私たちも知識をつけ、自ら行動する覚悟と決断力が必要と考えます。

 この本はスウェーデン出身の医師であり、公衆衛生の専門家であるハンス・ロスリング氏がご子息のオーラさんとその奥様アンナさんと共著で書かれています。ハンスさんはこの本の完成を待たずして膵癌で亡くなられ、ご子息夫妻が原稿を完成されました。
 共著という形でなければ、この本は世にでることがなかったのかもしれません。そういう背景を知ると、一層この本の重要性が高まる気がします(もちろん、そういう事実がなくても重要な一冊です)。

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