ep1

公園で誰かを待っている女の子がいた。この町では見かけない、きれいな女の子。ちょっと不良っぽくて、都会っぽくて。

飼い犬の散歩をしながら、少しの間みとれてしまった。

中央公園は、もうすぐ夏祭りだ。アスファルトの公園の真ん中に櫓がたっている。バス停のベンチに座っていた彼女は、バスが停まって、通り過ぎても、そのままそこに座っていた。

ちょっと目が合った気がして、慌ててそらした。公園から少し離れたところで犬が立ち止まったから、ちらりと公園の方に目を向けてみた。

バス停に車が停まって、彼女が立ち上がった。運転席にいたのは、ピンの兄ちゃんだ。

そのまま助手席に乗り込んで、彼女はどこかへ行ってしまった。もう夕方の六時。大学生はこれから出かけるんだな。

ピンの兄ちゃんは2年前に東京の有名な大学に入った。すげえなと行ったら、ピンは「別に」とすましていたけど、どこか誇らしそうだった。東京ってすげえな。あんなきれいな人と付き合えるのかな。

どこへ行くんだろう。国道沿いの焼肉屋かな。海かな。それとも、市内まで出かけるのかな。ご飯食べて、ドライブとかして、あそこのラブホテルに行ったりもするのかな。いいなあ。

そんなことを考えながら歩いていると、汗が噴き出してくる。東京で、渋谷?原宿?でかっこいい服を買って、髪の毛だってかっこよく伸ばして。

海の見える公園に着いた。リードを伸ばして犬を遊ばせて、ベンチに座った。蚊がいる。

黒くて細い僕の足。伸びかけた坊主頭の前髪をいじってみても、なんにも変わらない。

「ピンの兄貴が、めっちゃかわいい人とドライブ行ってた。」

マリアにLINEを送ってみた。既読。返事は無し。

夜の温度に変わった風が、Tシャツの中を吹き抜けていく。腹減ったな。晩メシ何かな。立ち上がって家に帰る。いいな、東京。行ってみたいな。ピンにも今度、教えてやろう。

黒いシャツのワンピースから伸びた、きれいな人の白い足が目に焼き付いて離れなかった。

家について、唐揚げを腹いっぱい食べて、風呂に入って。テレビを見ていたら携帯が鳴った。

「へー、ピンのお兄ちゃんモテるんだね。」

マリアからの返信だ。ニヤつくのをおさえて、なるべくおかしな感じにならないように、あくびのふりをして立ち上がって、自分の部屋に入った。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?