二度目の帰省 1
当日の空席があったら安く乗れるユースチケットを狙って羽田空港に向かったのは朝の8時。出発ロビーをウロウロしたり本を読んだり、隅っこのソファで寝たりして空席を待ったけれど、年末の帰省シーズンにそう簡単に空席が出るはずも無かった。
長崎行きの最終便は19時過ぎ。次の呼び出しで整理番号を呼ばれなかったら、明日また出直すことになる。
ほとんど意地で空港に居座り続けていたけれど、運良くひとつだけ空席が出て、最終便に乗ることができた。長崎空港に着いたのは21時。時津までの船はもう終わってしまっているから、父に頼んで空港まで迎えに来てもらった。
山間を走る、夜の高速道路。暗く静かな空間に車はポツンポツンと走る。なんとなく、呼吸が楽になる気がする。
晩飯は空港で食ったと言ったのに、腹が減っただろうと父は高速の出口近くに新しくできたラーメン屋に連れて行ってくれた。
「いつまでおる?」
「4日には帰るよ」
「そうか」
口数の少ない父だけれど、帰省を喜んでくれているようだ。
9月に合宿で運転免許を取った。これで盆の帰省の時にはかなわなかったドライブができる。タイラは実家にいるはずだし、ピンも帰ってきているだろう。3人でドライブに行くのが、今回の帰省の最大の楽しみだ。
家に帰ると妹がまだ起きていた。ラーメンを食べて帰ったと言うととてもうらやましがって、やっぱり空港まで着いて行けばよかったとブツブツ文句を言っていた。
2階の僕の部屋はまだ9ヶ月前のままにしてある。捨て損ねた参考書や教科書も、本棚にささったままだ。ベッドに横になって目を閉じてみるけれど、まだうまく体が馴染まない。主人のいなくなった部屋は、再び人を受け入れるのに少し時間がかかるらしい。
ボストンバッグを開きもせずに、そのまま眠ってしまっていた。寒さに目を覚まして、慌てて着替えて布団に潜り込んだ。せっかくの帰省なのに、風邪なんか引いていられない。明日の昼間は車を借りて少し運転の練習をしよう。9月に免許を取ったきり一度も乗っていないから少し心配ではあるけれど、東京の道と違って道も単純、車だって少ないから、きっとなんとかなるだろう。
布団に潜り込んでしばらく経つと、懐かしい匂いに包まれるのを感じた。そうそう。この匂いが僕の部屋だ。体温でようやく部屋も目覚めて、呼吸を始める。修学旅行で買ったタペストリーも、文集や卒業アルバムも、押入れのギターも、部屋の呼吸に驚いて目を覚ます。
年末の静かな夜。鳴海ニュータウンのあちこちで、こうやっていくつもの子ども部屋が、帰還した主人の体温で目を覚ますから、帰省した子どもたちだけでなく、町もいつもより少しソワソワしているようだ。
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