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あいつの部屋 2

タイラがやってきたのは、僕が部屋に入ってから1時間ほど経ってからだった。小学生の時は三人とも同じソフトボールクラブに入っていたけれど、中学校野球部に入ったのタイラだけだった。昔から体のでかかったタイラは中学校でもどんどん背が伸びて、身長は180センチを超えた。タイラは錦海高校でも野球部に入った。

「練習が長引いてさ。悪い悪い」

そう言いながらタイラは全然悪びれず、ベッドに腰掛けて足を伸ばした。Tシャツとハーフパンツから伸びる長い手足は、もう真っ黒に日焼けしている。錦海高校の野球部は坊主頭が強制ではないらしく、タイラは髪を伸ばしている。引き締まったふくらはぎに、筋張った太い腕。なんだか急に違う生き物になったように感じる。

「むちゃくちゃいいな、この部屋」

3人揃ったところで何をすると言うわけでもなく、思い思い、好きな話をした。品は、音楽とアニメの話、僕は漫画の話、それをふーんと聞き流していたタイラは女の子の話ばかりだった。

「南陽台はかわいい子多くていいよな、誰か紹介してくれよ。」

そう言われても僕は苦笑するしかなかった。確かに南陽台は市の中心部にあって人気の高校だから、きれいな女の子も多かった。でもそういう子たちは大体文系の普通クラスで、理系の特進クラスにいる僕たちとはまるで接点が無い。ピンの顔をちらりと見ると、全くの無の表情でぞっとした。

それから後も、タイラは何かにつけて女の子の話をしようとする。夏休みどうする?と言ったら彼女がいたら花火したり海行ったりするのにな、とか、勉強きついよな、といったら南陽台の可愛い子に教えてもらいたいなとか、好きなバンドの話をしたら、ギターできる女の子とかいいよな、とか、そんな具合だ。

いい加減僕も反応に困っていたら、ピンが口を開いた。

「女の話ばっかりうるせえなあ。」

僕もタイラも、しばらく黙った。ピンのこの声を聞いたのは久しぶりだ。声が大きいわけでもなく、語気が強いわけでもない。それなのにピンの声は心を強く突き刺してくる。怒りをたたえるピンの声は、真っ赤に燃える鉄の棒に似ている。静かで、熱く、鋭い。苛立ったピンの瞳は、いつもの重そうな瞼はどこかへ消えてしまって、夕日の沈む海のように燃える。

怒り。それも僕が密かに羨ましいと思うピンの特質の一つだった。僕の中にはほとんど無いもの。しばらくの沈黙の後で、ピンが椅子をくるりと回してこちらを向いた。

「ねえ、このサイト知ってる?ちょっと見て。」

僕もタイラもすぐにベッドから立ち上がって、両脇からディスプレイをのぞきこんだ。

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