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あいつの部屋 1

ピンが引越したのは、高校一年の夏のことだった。もともとニュータウンの端っこのバス車庫のそばにピンの家はあったけれど、新居はニュータウンの真ん中、二区画分の大きな家だった。

ピンは口数の少ない奴だった。引越しの話も別に自分から吹聴するようなことは無くて、そういえば、くらいで帰り道に聞いたのだった。

僕とピンは同じ、長崎市内の南陽台高校へ進んだ。朝はピンはいつも遅刻ギリギリに登校するから別々だったけれど、帰りはよく教室で空いているバスを待って、一緒に帰った。ニュータウンまではバスで45分かかる。僕もピンも、高校では部活に入らなかった。

土曜日にタイラも誘って、ピンの新居へ遊びに行くことにした。タイラは近くの錦海高校へ進んだから、顔を合わせるのも1ヶ月ぶりくらいだ。

呼び鈴を鳴らすと、ピンが玄関へ出てきた。玄関ホールが広くて、なんだか最近の家という感じがする。ピンの部屋は2階。僕の部屋の倍くらいの広さがあった。

「すげえ、いいなあ。」

そんな僕の言葉にピンは特に何も言わなかった。

小さな本棚、デスクトップPCが置かれた長い机、その横にはテレビとプレステ2もある。それとベッドが一つあるだけの、余計なものが無いサッパリとした部屋。なんだかピンらしいと思った。

「パソコンなんて、何に使うの?」

当時はまだwindows98の時代。高校生が自室にデスクトップPCを持っているのは相当に珍しい。僕の純粋な疑問にピンは目を丸くして答えた。

「いやいや、パソコンあるとヤバいよ。無しとかもう考えられん。」

何がどうヤバいのか。そこんところの説明が続くものかと待っていたら、ピンの言葉はそれきりだった。

ピンが座っているパソコンデスクの椅子は、メッシュのなんかかっこいい奴だ。僕の自室に置かれているのは、小学校入学時に買ってもらったスーパーマリオの学習机セット。頑丈で立派な奴であることはわかっているんだけど、高校生にはカッコいいと思えるものでは無い。

ベッドに腰掛けて上を見上げると、天井に埋め込まれたエアコンが見えた。

「エアコンやば、店のやつやん。」

僕の驚きにピンはうん、まあ、と答えるだけだった。ゲーム何があるの、と見せてもらうと、一人でやるRPGやシミュレーションゲームばかりで、二人で楽しめそうなソフトは無かった。この辺もピンらしい。

いつも伸びかけの坊主頭で、丸メガネ。普段はあんまりしゃべらないけど、たまにとてつもなくハイセンスなことを言って全員の爆笑をさらっていく。ピンはいわゆる同性に人気のあるタイプのやつで、中身の無い僕はそれが少し羨ましかった。

ピンには四つ上の兄貴がいる。兄貴が去年東大に行ったというのは、ニュータウンの中のちょっとしたニュースだった。ピンも兄貴同様成績はかなり良くて、進学したのは南陽台高校の特進クラス。ペーパーテストに関しては昔から要領がよかった僕も、ピンと同じ特進クラス。特進クラスはクラス替えがないので、3年間同じクラスで過ごすことが決まっていた。

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