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メル友のアカネちゃん 4

「普通がいいんじゃない?あんまり気合い入れすぎるとひかれるやろ、逆に。普通にTシャツとハーパンでいいって。服より眉毛とか髪型の方が大事じゃ?あと靴!靴大事!」

コウキのアドバイスは的確だった。さすがは他校の彼女持ちといったところだ。悩みすぎていっそ制服で行こうかと思っていた昨日の自分が恥ずかしいとタイラは思った。

アカネちゃんとの約束は来週の日曜に決まった。もう時間がない。服や靴はあるものをなんとか合わせよう。髪の毛もなんとかなるだろう。最大の問題はこのゲジゲジみたいな眉毛だ。眉を整えるには、何を使ってどうしたらいいかタイラは全然わからなかった。

「明日コームとはさみ持ってきてやるよ。」

我らがキャプテンはさすがだ、頼りになる。自分や周りのチームメイトたちに比べて、なんて大人なんだろう。川沿いのバス停までの道を歩きながら、タイラは急に自信が湧いてきた。

「どうなん?付き合えそう?ていうかその子かわいいの?」
「いや、顔は知らん」
「え?写メくらい送ってもらえば?」
「まあね」

タイラは平気な顔を装いながら、また気持ちがグラグラ慌てだした。たしかに俺は彼女の顔を知らないし、向こうも俺の顔を知らない。会って幻滅されたらどうしよう。逆に、相手がすごいブスだったらどうしよう。

その夜タイラは必死に考えた。写メを送ってもらう方法。顔知っときたいから?それはなんとも白々しい。顔を見たいな!これはかなりキモい。こっちからまず送る?いやいや、どこのナルシストだよ。考えてもいい答えは出なさそうだ。だんだん眠たくなってきたので、タイラは持ち前のおおらかさで、まあなんとかなるようになるさと心を落ち着けた。

翌日の部活の後、部室でコウキが眉毛をきれいに整えてくれた。そんなことをしていると当然周りの連中が勘繰ってくる。

「コイツ日曜デートなんだよ」

コウキの言葉にチームメイトたちは大盛り上がりだ。話の流れ上仕方がないとは思うけれど、ちょっと誤魔化してほしかった。でもお膳立てから何からここまでやってくれたコウキに腹を立てるのはお門違いというものだ。

え、付き合ってんの?手、つなぐの?キスとかするの?まじ?まじ?

猿山のサルみたいに騒ぐみんなを見てコウキも笑った。くしゃっと笑うコウキの笑顔は同じ男でもドキッとするくらいかっこいい。この感じ、この余裕。日曜はぜひ見習って過ごしたい。

日曜がこんなに待ち遠しいのは初めてだった。まだか、まだかと待ち侘びるのにも疲れてくる。そしていいな、ズルいなと毎日からかってきた友人たちの熱も冷めた頃、いよいよ日曜日がやってきた。

待ち合わせは2時。アカネちゃんは午前中は部活らしい。タイラは朝8時に起きて、待ちきれず服を着替えて、髪型を整えた。シンプルなプリントの白いTシャツに、カーキのハーフパンツ。くるぶしソックスに、ナイキのスニーカー。コンビニでワックスも買って、短い髪を一生懸命ネジネジしてツンツンさせた。10時頃には準備も完了。タイラは午後を待ちきれず、10時18分のバスに乗ってニュータウンを旅立った。

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