保育専門職の乳幼児に対する関わり方
どうもしろやぎ保育書房です。今回の動画解説はこちら
以前、新要領、新指針について解説しました。
そこでは、2018年3法令の改正のポイントを3つお話しました。
1養護の大切さが強調されたこと
2幼児教育に新たな視点が加わったこと
3PDCAサイクルで保育の質向上を目指す
その3つのポイントのうちの一つが
「養護の大切さが改めて強調された」ということでした。
例えば、子どもにとって最大の養護を保証すること。
また、子どもが安心して穏やかな生活を送れる「保育室環境」を整えること。
背景には、親の経済的困難による子どもの貧困、そして愛情の貧困があります
子どもの様々な貧困状況が、子どもたちの非認知能力の育ちに影響を与えている。
なので、これからはより一層、保育現場において、養護を大切にしてください。ということになったんですね。
これに対し、発達心理学者の鯨岡峻さんは、養護、という保育者の行為だけでなく、本来もっと議論されるべきなのは、「養護の働き」と呼ばれる「保育者の心のあり方」だ、と言いました。
同じ抱っこという行為をしていても、保育者が「愛おしい」と思って抱っこするのと、「重いな、早く寝てくれないかな」と思って抱っこするのとでは、子どもが受け取るものが変わってくる。
非認知能力の基礎ともいわれている、「基本的な信頼感」「自己肯定感の育ち」には、大人の「養護の働き」、大人の心のあり方が最重要だ。と言ったわけです。
では、「養護の行為」と「保育者の心」を結ぶものは何かというと、
私は「思考力」を挙げたいと思います。
専門的な知識と、それをもとに判断する力があって、専門的な養護の行為が可能になる。
また、人の心の育ちに理解があるから、自分の心を大切にできるし、子どもの心を育てる事もできる。
こう考えると、子どもと関わるときに、保育専門職の私達に求められているのは「技、知、心」ではないでしょうか。
つまり、
養護の行為と、保育者の心と、知識に裏付けされた保育専門職としての思考力。
子どもと関わる。
このシンプルな行為は、私達は「当然できるもの」として、あえて養成校や研修などで学んではきませんでした。
「誰にでもできるだろう」と考えられてきたからです。また、人によって様々な関わり方があるし、関わるという行為に絶対の正解がない、とも考えられています。
しかし、保育専門職として考えたとき、「これはだめでしょ」というものはありますし、「こうしたほうがいい」というものも確かに存在します。
今回はそんな「子どもとの関わり方」にフォーカスして、保育の専門性の基づく関わり方とは何か、ということを探っていきたいと思います。
そして、理論や知識だけでなく、そこから思考し判断するにはどうすればいいかも考えていこうともいます。
今日のメニューです。
1なぜ専門性に基づく関わりが必要か
2関わり方の原則
3子どもとの関わり方2つのポイント
4最後にまとめを入れたいと思います
今日の参考文献はこちら
『改定 保育者の関わりの理論と実践』高山静子著になります
それでは今日もよろしくおねがいしまーす!
①なぜ専門性に基づく関わりが必要か
さて、まずは専門性に基づく関わりというものが、なぜ必要なのかを見ていきたいと思います。保育者が専門的な関わりをする意義ですね
子どもの保育という観点から考えると、
「子どもたちが健やかに育つために、専門性に基づく関わりが必要」
ということになります。
具体的に言うと、例えば、「安心感」や「基本的信頼感」。こういったものは、保育者が側であたたかく見守ってくれたり、応答的に答えてくれたりすることで育まれていきます。
そして、信頼する大人が近くにいることで、周囲の様々な自然や人に働きかけ、世界を広げていくことが可能になります。専門的な関わりが、子どもたちの基本的信頼感に繋がり、さらに生きるための様々な力を身に着けていくことに繋がります。
また、大人との関わりを通して、子どもたちは自分自身のイメージを作ります。
乳児は、まだ自分がどんな存在なのか、具体的なイメージを持っていません。
そんな中、周囲の人が応答的に答えてくれると「自分は愛されている存在だ」と感じることができます。一方、否定的な言葉ばかり使うと、自分は愛されていないと認識したり、否定的な言葉や命令言葉ばかをり使うと、無力感が育ったりしてしまいます。
もうひとつ、保育者の言動が子どもたちの行動や価値観のモデルになる、ということもあります。
幼児期には「善悪についての学習と良心の芽生え(ハヴィガースト)」という発達課題があります。
これは、幼児期というのは、人として良い事、してはいけない事、というのを学習する発達段階にある、ということなんです。
そして、このときに子どもたちがモデルにするのが周囲の大人です。特に憧れの存在である保育者の場合も多いです。
保育者の思いやりにあふれた行動を見ると、子どもたちは友達に思いやりをもって関わります。しかし保育者の否定的な言動を見ると、「だめな人には、言葉や態度で否定をしても良い」と学習します。
つまり保育者の振る舞いが、子どもの行動や価値観に大きな影響を与えるわけです。
まとめると、保育者は、
子どもたちの安心感や基本的信頼感を育むために、
また、子どもたちが自分は愛されている、というポジティブな自分像を描くために、
そして、子どもたちの行動や価値観の形成に影響を与える、という理由で、
専門的な関わり方が必要になる、というわけです。
さて、このような専門的な関わり方をするには、当然「専門知識」が必要になるわけですが、じつは、専門知識を学んだからといって、専門的な関わりができるというわけではありません。
ここで専門職という人々が、専門知識をどのように扱うか、を見ていきましょう。
対人援助専門職の専門性を研究するシーフォーは、専門職と非専門職をこのように区別しています。
1行動原理
・専門職は専門知識に基づいて行動を決める。
・非専門職は所属機関の決まり、自分の好みや意見によって行動を決める。
2意思決定
・専門職は客観的な状況の中の事実に基づいて意思決定する。
・非専門職は個人的な視点と都合に基づく主観的なルールによって意思決定する。
3学び
・専門職は、事実という根拠に基づいて判断し、目の前の子どもの状況に合わせて考えるため、常に悩みが生じる。変化する相手や状況に合わせ、自分の考えとは異なる理論や実践を学び続ける。
・非専門職は「私はこう思う」「今までこうやってきた」「園の決まりだから」という根拠で保育の方法や関わり方を決める。そのため、悩まず、自信を持って保育できる。また、学ぶ必要性というのを感じなくなる。
つまり、
専門職は、意思決定の根拠が「専門知識」であること。
そこに客観的な状況がプラスされ判断をするけれど、主観的な意見や好みは入らない。
そして、その専門知識を、常にアップデートしつづけている。といえます。
こういった専門職の保育者によって、子どもたちとの関わりが保証される。
専門的な関わりを通して、子どもたちの健やかな育ちにつなげていく。
ということが大切になります。
②関わり方の原則
さて、ここまで専門的関わりの必要性を見てまいりましたが、実際のところ、保育者の関わり、というものは非常に複雑です。
その複雑さを理解するため、本書では保育者の姿勢や態度を、3層構造を用いて説明しています。
1つ目、ベース層には「どの仕事でも大切な姿勢と態度」があります。
その上に2つ目の層「専門職として大切な姿勢と態度」があります。
そして、最後の3つ目の層に「保育者としての大切な姿勢と態度」があります。
この3つの層が、本来保育者に求められている姿勢と態度ではないか、と言うことなんですね。
具体的には1つ目のベースの層「どの仕事でも大切な姿勢と態度」としては、
OECDのDECECO研究プロジェクトを参考に「自律的に活動する」「異質な集団で交流する」「相互作用的に道具を用いる」が挙げられています。
2つ目の層「専門職として大切な姿勢と態度」では、倫理の範囲、倫理の責任というものを念頭に、「事実と専門知識に基づいて判断し、行動すること」「公正であり、専門職倫理に基づいて、専門的な関係を持つこと」「人権侵害を行わないこと」があげられています
そして、3つ目の層「保育者として大切な姿勢と態度」では、「主体性を尊重する」という関わり方を重視するために、「自律を支える」「有能感を支える」「関係性を支える」という姿勢を重視することを挙げられています。
これらの3つの層に入っているそれぞれの姿勢や態度を、本書では更にわかりやすくすために、「保育者の関わりの5つの基本」としてまとめられています。
それがこちらになります。
1,ポジティブな態度
(肯定的な表情と言葉を使う事。未来志向であり、相手を信頼する事)
2,主体性を尊重し自己決定を促す態度
(相手を信じて待つ事。相手の価値観考えを知ろうとしたり、受け止める事)
3,相手に合わせた応答的で柔軟な態度
(状況に合わせ柔軟に対応し、相手の立場で考え、応答的関わりをする事)
4,客観的で公平な態度
(集団を公平に、感情的・差別的でなく、倫理観・専門知識に基づき動く)
5,自律的で主体的な態度
(自発的に援助や指導を行う事。相手の感情や態度に振り回されない事)
いかがでしょうか。私が現役の保育士だった頃、この5つの基本が自然にできている保育者も確かにいました。とても信頼できる先生でしたし、保護者の方からも、他の先生からも信頼され尊敬を集めていました。
一方で、たとえば、ネガティブな言動で子どもに迫る先生、公平さに欠け、何人かだけを可愛がる先生、子どもの話を聞かず頭ごなしに叱る先生、というのも実際には何人も見てきました。
当時は、こういう先生は、こういう性格だから、どうしようもない。この人はこう育ってきたわけだし、人の性格は誰にも変えられない。という半分あきらめのような気持ちで見てきました。
しかし、この関わり方5つの基本を見てみると、これは性格云々の話ではなかったように思います。基本というのは原則のこと。
本来、この関わり方ができているからこそ「保育専門職」を名乗れるわけです。
この5つの基本を守れているからこそ、子どもたちの育ちを支えていけるわけです。
つまり、当時見ていた先生は、性格ではなく、経験を積み、自信をつけたことと引き換えに、どこかで学ぶことをやめてしまった先生たちが陥ってしまう「罠」とよべるものなのかもしれません
改めて、専門職としての学びを深めることの大切さ、学び続けていくという事の重要性というものを感じます。
③専門性の基づく関わり方の2つのポイント
さて、ここからはいよいよ具体的な関わり方について、実践におけるポイントを2つに絞って紹介していきたいと思います。
専門性に基づく関わり方のポイント①ポジティブな関わりをする。
子どもたちの自己肯定感、基本的信頼感を育むために必要な関わり方が、「ポジティブな関わり方」です。
ポジティブな関わりというのは、例えば笑顔で接したり、柔らかい雰囲気で話したり、明るく楽しい言葉遣いを選んだり。子どものやる気を引き出す言動、といったものがそれに当たります。
ここでは鯨岡さんがいう「養護の働き」保育者が心をこめて「あなたは大切な存在だよ」「あなたと一緒に入れて本当に嬉しい!」といったような気持ちを込めると良いかもしれません。
さらに、子どもの良い面に焦点を当てることも大事です。
これは「ストレングス」と呼ばれる視点を持つことなんですが、
ここでいう「ストレングス視点」というのは、一人ひとりの強みにフォーカスすることです。
人というのは、どうしても誰かのできないこと、苦手なことに目が向いたり、克服させようと考えたりしがちです。
しかし、すでにできていることや強みにも着目して関わることで、子どもの存在全体を肯定的に捉える関わりが可能になってきます。
たとえば保育中に「この子は給食の好き嫌いが多いな」とか「何度言っても約束を守れないな」ということを思ったとき、その事だけにフォーカスすると、「できない子だな」と存在を否定したり「どうしてできないんだ」と怒りの気持ちも湧いてきてしまいます。
でも、考えてみると、大人だって何もかもできるわけじゃありません。大人だって、食べたくないものがあるかもしれない。約束をついつい忘れてしまうこともある。
そんな時、それを誰かに責められたら、悲しくなってしまいます。そんなことだけで自分を否定されたら、辛くなってしまいます。大人も子どもも一緒ではないでしょうか。「もっと別の部分も見てほしいな」と感じる気持ちも湧いてきますよね。
なので、専門的な関わりができる保育者は、「できないこともあるけれど、それでもこんなに素敵なこともいっぱいある!」と言うふうに、子どもの存在全体をポジティブに捉えて接することができるんです。
相手を変えるという行為は、そもそも非常に難しいことです。変えることができるのは自分の視点です。ストレングス視点をもち、子ども達とポジティブに向き合うと言うことが、保育専門職の私たちに必要な事ではないでしょうか。
専門性に基づく関わり方のポイント②相手を尊重し、自己決定を促す
保育では主体性を尊重することが求められています。ではそんな主体性を尊重する関わり方とは、いったいどう言うものでしょうか。
本書を参考にすると、3つのステップが考えられます。
まずは、主体性を尊重する関わり方のステップ1,状況を作る。
これは、「子ども達にこうなって欲しいな」と願いを持った時、「こうしなさい」と言うのではなく、自分の言動を振り返ってみたり、自分がモデルになってみたりすることです。例えば「子ども達に思いやりを持って欲しいな」という願いがあれば、子ども達に思いやりを持って接してみる。年下クラスの子ども達に丁寧に接して、関わり方のモデルを見せる。子どもは憧れの保育者の言動をモデルに自分たちの価値観、行動を形成していくので、自分を振り返ると言うことが大事です。また、状況を作る時は、環境構成によって、自発的に活動できる空間を作ることも大事です。
主体性を尊重する関わり方のステップ2,子どもの気持ちをよく聞いて、受け止める
保育者は普段から子ども達のことをよく観察し、理解し、価値観を知ろうとしていると思います。また、何かトラブルがあった時、頭ごなしに叱ったりせず、なぜそう言うことをしたのか、どんな気持ちだったのかを丁寧に聞き取ろうとします。
この応答的なやりとりが、主体性の尊重には非常に大事だと言うことなんですね。
例えば「誰かを叩いてしまった」と言うことがあった時、それをみてすぐに「叩いたらダメでしょ!」と叱っても、子供の気持ちには届きません。ただ、怒られた、自分を否定されたとだけ感じてしまって終わりです。
しかし「こういうことされて、嫌だったんだね」と一旦、こどもの気持ちを受け止めます。それだけで子どもの気持ちは救われます。そうなると「でも叩くというのは、あまりよくなかったかもしれないね」と伝えることも可能になってきます。
主体性を尊重する関わり方のステップ3,一緒に悩む
子供の主体性を大切にする保育者は、子ども自身が考えて工夫するために、答えや対応がわかっていても、あえて言わずに見守ることが多いと思います。そして「どうしたらいいかなあ」「何かいい方法はないかな?」と聞いて子ども達の中から何か出てくるのを待ちます。こういった一緒に悩んでくれる関わり方こそが、相手を尊重し、自己決定を促す関わり方となります。また、主体性を尊重しようとするときには、あえて関わらないと言うことも場合によっては大切になるかもしれませんね
④まとめにいきたいと思います
今日は、専門性の基づく関わり方についてみてきました
保育者が専門的な関わりが必要な理由は3つありました
保育者は子どもたちの安心感や基本的信頼感を育むため。
また、子どもたちに自分は愛されている、というポジティブな自分像を持ってもらうため。そして、子どもたちの行動や価値観の形成に影響を与えるためです。
専門職としての保育者は、意思決定の根拠を「専門知識」にする必要があります。
そして、客観的な状況をみて判断をするけれど、主観的な意見や好みは入れてはいけません。そして、その専門知識を、常にアップデートしつづけている必要があります。
専門知識に基づく関わり方の基本は5つです。
1,ポジティブな態度
2,主体性を尊重し自己決定を促す態度
3,相手に合わせた応答的で柔軟な態度
4,客観的で公平な態度
5,自律的で主体的な態度
わたしたちは、この5つの基本を大切にして子ども達と関わっていく必要があります。
ここでいうポジティブな関わりとは、笑顔で接したり、柔らかい雰囲気で話したり、明るく楽しい言葉遣いを選んだり。子どものやる気を引き出す言動、といったものです。
また、ストレングス視点をもち、子どもの良いところにフォーカスし、子供の存在全体を肯定的に捉えることが大事です。
主体性を尊重した関わりには3つのステップがありました。
1状況を作る
2子どもの気持ちをよく聞いて受け止める
3一緒に悩む
はい。これが、今回のまとめとなりました。
私は、はじめに、子どもと関わるときに、保育専門職の私達に求められているのは「技、知、心」ではないでしょうか。といいました。
今回ここまで考えてみても、やはりその思いは変わりませんでした。
保育者が子どもを愛おしいという気持ちを持つ。専門知識によって判断し意思決定をする。そして、適切な行為に及ぶ。
こういった流れができてくると、専門的な関わり方ができる保育者がこれからも増えていくんじゃないかなーと思います。
えーしかし、一つだけ懸念があるとすれば、専門知識と言うものは、忙しい毎日の中に埋もれてしまいがちだ、ということです。
私も経験があるのですが、忙しすぎたり、自分が疲れてしまっている時、「こうすることが大切なんだ」「こう関わらないといけないんだ」とわかっていても、どうしてもできない時があります。目の前の子ども達の思いを大切にできない時って、実は結構あるんじゃないかと思ったりします。
良い関わりを支えるための下地、たとえば他の先生の協力がある、とか、疲れを適度に抜けるような有給休暇のシステムがある、とか、思っていること考えていることを共有できる仲間がいるとか。こんなことが大事だな、と思うこともしばしばです。
しかし、今日ここまで聞いていただいた方が、よい関わり方を忘れてしまう、と言うのはやはり忍びない気持ちもあります。
なので、一つだけでいいのではないかと思うんです。今回、気になった、参考になった。そんな一つを、一つだけを大切にして、明日からの保育に向き合っていく、というはどうでしょうか。きっとその一つが、みなさんの子どもへの関わり方を、より豊かにしてくれるんじゃないかと思います。
子どもたちとの関わり方を日々悩む中で、そして、忙しい毎日のなかで、今回の動画の何か一つがみなさんの力になったら嬉しいです。
「もうすぐ暑い夏がやってきます!
先生もたっぷり水分とりながら、体調崩さないように頑張ってくださいね!
子ども達と良い関わりを!」
今日は以上になります
どうも、ありがとうございましたー!!