23日からのクリスマス
僕の名前は三汰。
今日は、見習いになってからの初仕事。
僕の仕事? 僕の仕事は・・・
年に一回、神聖なる抽選で選ばれた子供にステキなプレゼントを贈る仕事。
この白い袋に手を突っ込んで、エイっと取り出すと
その子が欲しがっているプレゼントが、出てくるって寸法さ。
でも、本当にその子が欲しがっているプレゼントを取り出そうと思ったら
ちゃんとその子の事を理解して、気持ちに寄り添わないとダメなんだ。
今日は、12月23日・・・僕の初仕事の日。
なんで24日じゃなくて、23日なのか?って
そうそう、それは僕がまだ見習いだから。
見習いが、エイっと取り出したプレゼントが失敗だったとしても
24日に先輩が、エイっと取り出して挽回できる。
だから、見習いは23日に活動するんだ。
さてさて、僕の担当のあの子は、いったいどんなプレゼントを欲しがっているんだろう・・・
そんなことを考えながら、右横の同じく見習いに話しかけた
「ねぇ、君は担当の子が欲しがっているプレゼントをどうやって調べる気だい?」
「あはは、そんなの簡単じゃん。 その子の親に聞けば良い。
この時期なら、自分の子が欲しがるプレゼントを親は絶対に知っているよ。」
そんな会話に、僕の左横の見習いも混じってきた。
「あと、学校の流行も調べないとね。 やっぱりさ・・・プレゼントをもらった次の日に、みんなで何をもらったのか・・・なんて話をワイワイしたときに仲間外れにならないようにしないとね」
(そっかぁ、みんな色々と考えて準備してるんだなぁ 僕も頑張らないと)
「じゃあ、二人とも・・・僕はもう行くね」
左右の二人の見習いに声をかけて、僕は出発した。
まずは・・・あの子の親に聞くところから始めようっと
僕は、あの子のお父さんの職場にひとっ飛び。
「えっ あの子の欲しいモノはなんだって?」
僕は、あの子の父親に真正面から質問をぶつけてみた。
「そりゃ、アレだろ? あのゲーム機 Witchだろ
12月24日にそれがプレゼントに欲しいって言ってから・・・」
「でも、高いんだよなぁ 品切れが続いていてネットでプレミアが付いてるから」
(ふむふむ、ゲーム機のWitchか・・・)
「他に何か聞いていませんか?」
と、話を続けようと思ったけど、お父さんの姿はそこにはなかった。
どうやら、上司の人に呼ばれて、走っていっちゃったみたい。
(せわしない人間だなぁ)
次は、お母さんの職場へひとっ飛び。
「えっ あの子の欲しいモノを知らないかって?」
今回も僕は、真正面から聞いてみた。
「う〜ん、それならお父さんに何かねだっていたわね・・・」
「ゲーム機のWitchですか?」
「そうそう、それそれ」
「他に何か聞いていませんか?」
と、質問を続けようと思ったけど
「ごめんなさい、今ちょっと新しい企画の資料を作っているの!
私にとっては大切な勝負の企画なの!
集中したいから、後にしてくれない?」
そう、ぴしゃっと言われてしまった。
(う〜ん、厳しい人間だなぁ)
親の話は聞けたから、次は学校へ向かおうかな。
あ・・・そこの君、何で本人に聞かないのって思ったでしょ?
本人に聞くのは、絶対にダメなんだよね。
だってさ、僕たちの正体がバレちゃうでしょ?
バレるとやっぱり具合が悪いんだよね。 なんか不公平なシステムだし
世の中なんて不公平なモノだけど、それを知るにはまだちょっと早いよね。
そんなの無粋だよね。
次は学校にひとっ飛び。
学校では色んな子に流行っているモノを聞いて回った。
(うんうん、waTubarとか、咀嚼音動画とか、天使の刃とかが流行ってるみたい・・・なんだか物騒なゲームも流行っているけど、ゲーム機をプレゼントにするのなら物騒でないのにしないとね)
あの子と仲の良い子にも、話を聞いてみよっと
「えっ あの子の最近の様子?」
さすがに子供に直球の質問はダメだよね。
今回は変化球を織り交ぜてみた。
「あの子、最近どうよ?」って感じ?
「う〜ん、最近ちょっと元気がなさそうね・・・」
「お父さんとお母さんの仕事が忙しいみたいで、家にいてもヒマだってさ」
(おおっ ヒマにはやっぱりゲームだね)
「そうなの?」
(アレ? 別の子が混じって来ちゃったよ)
「うん、いつもヒマヒマって言っているよ」
「へー、 ちょっと前に家族で北海道へ旅行に行ったって話を楽しそうにしてたけどね・・・」
「お父さんとお母さんが忙しくなって、きっとそんなヒマ無くなっちゃったんだね」
(うんうん、やっぱりヒマにはゲーム)
よしよし、これで調査は完璧。
せっかくだし、もうちょっとこの街を探索して行こっと・・・
それから僕は、ぷらぷらとこの街を歩いてみた。
時刻はちょうど帰宅時間。
学校帰りの人や、会社帰りのサラリーマンが多く歩いている。
(う〜ん、急に寒くなったせいか、みんなせかせかと背中を丸めて歩いているなぁ)
さて、そろそろ僕はあの子の家に向かいます。
で、ここからどうするかって言いますと・・・
このプレゼントを取り出す白い袋は、人間には見えないんだねぇ
だから・・・
あらよっと
この白い袋を頭から被ると、人間には見えなくなるんだ。
ほら? 見えなくなった・・・便利な袋でしょ?
(SFって便利だね・・・)
ん? 何か変な声が聞こえたよ・・・気のせいかなぁ
白い袋を被って見えなくなった僕は、あの子の家の玄関から
そぉっと侵入・・・侵入?
そして、部屋に居るあの子の様子をそぉっと伺う
うん、部屋の真ん中にちょこんと座っていて
なんだか、とってもヒマそう?
手持ち無沙汰っていか、やることないなぁって感じ?
うんうん、もうちょっと待っていてね。
もうすぐステキなプレゼントを取り出すから
ゲームがあれば、ヒマ・・・なんてこと無いもんねー
でも、ここじゃマズイから・・・
僕は、あの子の家の屋根の上に登ります。
屋根の上に登った僕は、白い袋に手を突っ込んで
エイっと取り出す。
ゲーム機ーーーーー
おっと? ちょっと声が漏れてしまったかも
で、僕が白い袋から取り出したモノに目を落としたんだけど・・・
アレアレ?? なにコレ?? う〜んと・・・
僕の手のひらには、ゲーム機とは程遠い・・・
う〜ん、コレは植物の種?? 失敗じゃん
なんで? なんで? なんでなんでなんで???
僕が見習いだから? あの子の気持ちが理解できなかった?
寄り添えなかったって事??
うそうそ?? あんなにちゃんと調査したのに・・・
あっ でも、そんな場合じゃない 落ち込んでいる場合じゃない
早く先輩に泣きつかないと・・・
今泣き付いたら、きっとまだ間に合うハズ
僕は手のひらの種をポイっとあの子の家の庭に捨てて
先輩の元に泣きながら向かった。
「せんぱ〜い・・・泣」
僕は、今日の出来事を先輩に説明した。
うんうん、と優しい笑顔で話を聞いてくれた先輩は
「よし、じゃあ、ちょっくら俺が明日あの子の家に行って
ゲーム機を、あらよって取り出して来てやるよ」
「安心しろ、見習い」
僕はその言葉を聞いて安心した。
次の日・・・
僕は先輩を見送った後
自分の何がいけなかったのか、何回も何回も考えた。
考えて考えて、考え過ぎて
気付けば、眠っていた。
「おいっ 起きろ 見習い」
う〜ん、う〜ん
夜が明けきらない時間
僕は、先輩にぶんぶんと揺すられて、起こされた。
「う〜ん・・・あっ 先輩」
目の前には、笑顔ドアップで先輩の顔
「起きろ、起きろ」
「う〜ん・・・ゲーム機は?」
「俺にかかれば楽勝だって」
そう言って、親指を真っ直ぐにして笑う先輩
「ありがとうございます。 やっぱり凄いですね先輩」
「まあまあ、そんなこと言ってる場合じゃない。 一緒にあの子の喜ぶ顔を見に行こうぜ」
先輩にそう誘われた僕は、二人であの子の家へと向かった。
あの子の家の玄関で、二人で白い袋を頭からスッポリと被った。
その状態で、玄関から侵入・・・侵入?
そぉ〜っとあの子の部屋に向かって
そぉ〜っとあの子の様子を見ると
「う〜ん、 むにゃむにゃん」
ちょうど、起きるところだった?
「う〜ん、 むにゃむにゃんこ」
眠たい目を擦りながら、自分の布団の周りをキョロキョロとしている??
たぶん、プレゼントを探しているんだろう?
「あれ? 先輩・・・ゲーム機はどこ??」
「いいから、いいから 黙って見てろって」
のっそりと起きだしたあの子は・・・
少し残念そうな顔をしている?
そのまま窓の方に向かい、カーテンをサッと開け
窓をガラガラっと開けて、外を見た。
窓の外には、一本だけ咲いたヒマワリ
「あれ? なにアレ?? 一本だけのヒマワリ・・何?」
とつぶやく僕
「まあまあ、見習いならあんなもんだな」
そう言った先輩が、親指をパチンと鳴らすと・・・
庭一面にヒマワリが・・・
「あ〜〜っ 凄い凄い」
あの子の残念そうな顔も一瞬で
ステキな笑顔に。
(完)
この後は、各自ステキなエンドロール・ミュージックでも流して
余韻を楽しんでくだされ。
こちらの作品にインスパイアされました。
おりちゃさん・・・ありがとう。