小児科医として 親子を見続けて・・・ 白髪胃腸科内科小児科 院長 白髪宏司

〔医師の診療〕:
私は、この春には医師40年目となります。大学病院、市中基幹病院、そして3年ほど前からの個人開業医として、見える景色はどんどん変わっていますが、親子関係の見え方は不変です。

小児科医は親子を診ています。親を観て、子どもを診るのです。時には親の方をより懸命に観ていることがあります。

もちろん、急性疾患の診療では、家人全員の健康情報が不可欠です。診察室に入られる全員に目を向けながら、子どもの病状を更によく尋ねることが、誤った診療を防いでくれます。

落ち着きのない子、突拍子もない感じの子ども達、きっとお父さんお母さんのどちらかに、時にはご両親両方に似ておられることもあるでしょう。ご自身や伴侶の姿と見比べると、似ている様相が、しばしば腑に落ちることでしょう。我が子としてほほえましくもあるはずです。

私は、園や学校で校医として健診をすることもあります。健診では、しばしば、子どもの家での様子が、見え隠れすることがあります。気になるお子さんは、親御さんにも逢ってみたいと思うのです。

ところで、みなさんは、どんな医師に診てもらいたいと思いますか?

私のコメントは当たり前かもしれません。それは、是非とも「学習を続けている医師に診てもらいましょう!」ということです。

少し調べると、どんな医師かはすぐに判る時代です。絶えず進歩する医療に追いつき、知識をアップデートしている医師に診てもらいましょう。

〔計り知れない子どものポテンシャル〕:
還暦を超えて齢を重ねていくと、自身の非力さを実感させられるような、驚くほどの凄い成人の才能を、目の当たりにすることが少なくありません。

IT企業で世界を変えた人、険しい山中を昼夜マラソンするフィールドトレイルをこなす人、他国のために自身の生涯を捧げた人、歌や笑いで人を和ませる人、ラガーマンとしてのみならず人間性まで優れた人、などなど。枚挙にいとまがありません。

皆様のお子さんたちはみな、彼らと同じような人になり得るポテンシャルを持つのです。学生時代までに積み重ねた情操教育は、大人になってから、想定外に役立つことが少なくありません。

「芸は身を助く」とはよく言ったものです。お子さんの興味にとことん寄り添い、その道を極めることを、援助してください。

どのような形であれ、社会によい関わり合いが持てる大人に育たれるように願わずにはおれません。そのためには、子ども達が健やかに育てる環境を、大人達(親)が、しっかりと作っていくことが必要です。

子どもの守られるべき特権の一つは、どんな時にも必ず戻れる「ホームベース」を持っていることでしょう。

最初は、母親にしっかり抱かれての哺乳。それはとても安心できる巨大なホームベースです。そのサイズは幼少児期ほど大きいほうがよく、必ず守られる環境の中で、安定した心が自然に育まれるでしょう。

我が子の心身の健康を願う親たちは、何に配慮すればよいのでしょうか?やんちゃな幼児期には、子どもたちが毎回ホームベースに戻ってくる度に、ギュッと抱きしめる。夜は物語を読み聞かせて、夢の中へいざなう・・・など。

世界の小児科学会の一致した提言の一つに、「テレビやDVD、携帯動画やゲーム機器などに、子守をさせてはいけない」ということがあります。

動画を見るならば、一人で見させるのではなく、親も一緒に見るなどして工夫する。そうはいかない場合もあるでしょうが、外遊びとのバランスも考えながら、寝る前は使わないなど、ルールを決めて、上手に付き合えるといいですね。

そして、物心がつき、自ら没頭することがあれば「思いっきりやった」と満足できるまでやらせる。

子どもの頃に、やりたいことをやれなかったという思いを持つ親たちは、自分の子どもにも制限をつけやすいようです。「これもダメ、あれもダメ」な環境にさらされると、他人への許容心も育ちにくいようです。

逆に、子どもが高校を卒業する頃には、親は意識してホームベースのサイズを小さくすべきでしょう。

社会での善悪が分かる年代になっても、広すぎるホームベースを提供し続ける親がいます。大人の世界の入り口に至っても、あれこれと口出ししすぎる親。それに反発もせず、むしろ親頼みの高校生や大学生。

今のままの社会では、子どもたちが普通に巣立ち、よき大人となり、子どもを健やかに育む親になっていくことは、必ずしも容易ではないと、確信するようになって、久しいです。

〔子どもの病気との向き合い〕:
急性疾患では、3日間は慌てないでください。不安であれば受診を。でも、慌てて受診する必要はあじりません。高熱が続いても、普段と比較してそれなりに元気であれば、どうぞ慌てないでください。

4日目に至っても、症状が改善しない場合には受診しましょう。

その後、再診する場合には、できれば同じ医師に、もう一度診てもらいましょう。改善が乏しいことを確認した医師は、更に真剣に適切な治療を模索することでしょう。再診は医師の自己学習にも不可欠なのです。

普段のお子さんや、彼らのご家族を知る「かかりつけ医」の存在は、こうした診療をスムーズにするためにもとても大切です。

親が納得でき、子どもが楽しく診察室に入ることのできる「かかりつけ医」に、どうぞ巡り合ってください。

心の傷ついたお子さんには、どうぞ彼らの存在自体を受け止めてください。それは、親にしかできない絶対的な許容です。

お子さんが誕生されたあの日の喜びを思い出され、彼らが生きてそこに有ることを、感謝しましょう。

生まれつきのご病気や慢性疾患では、医療チームに治療を委ねましょう。説明を尽くし、医療者と親、ともに子どもの病気に向き合う姿勢がある信頼できるチームだと納得されたら、治療内容は医療者に任せて、とことんお子さんの心に寄り添ってください。そのお姿は、きっと医療者に伝わります。(常に忙しい基幹施設では、どうしても時間もかかるこの姿勢が、気持ちはあっても伝わらないことが有ります。)

そして、どうぞ親御さんが疲弊されませんように。親の疲れや悲しみは、お子さんに以心伝心しますから。

(老医の駄文をお読みくださりありがとうございました。協力医の一人、白髪胃腸科内科小児科 白髪宏司)


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